BLOODBOUND/「Creatures Of The Dark Realm」:72p
実を言うと、本来ここに取り上げようと考えていたのは、かのPOWERWOLFの新作だった。
このところ名を高めているジャーマンメタルの中堅による、「Call Of The Wild」と題され先日リリースされた、8作目のフルレンス。
何せドイツ本国のナショナルチャートで1位、という謎の快挙を得た前作に続くアルバムだ。
この界隈でも注目していた人も多かろう。
ぼくも対面するのは初めてではあったが、少なからず興味を持ち、何度か聴きながらレビューの下書きを試みてみた。
が。全く、書けなかった。
書き始めると、とたんに「じゃねーんだよなあ」が頭を支配したのだ。
それが何度か続き、そしてぼくは書くのを諦めた。
いや、必ずしも悪いアルバムだとは、思わない。
バカバカしいまでに、勇猛で、大仰。
バカじゃないの?ってくらいに、ドラマティックで、ダイナミック。
つーかバカだろこいつらってくらいの、過剰な熱量。エクストリミティ。
ジャンプ生まれバトル漫画育ち。(頭の)悪そなメタルは大体大好き。
そんなぼくは、そのせいか昔から、馬鹿馬鹿しいほどにパワフルなロックに弱い。
馬鹿馬鹿しいほどにストレートで、馬鹿馬鹿しいくらい力業のロックに弱い。
だからこれも、勿論イケるだろう。
そう思っていた。
イケなかった。
全く、受け付けなかった。
過剰過ぎた。
やりすぎだったのだ。
エドゥ・ファラスキの新作に触れて昨日も書いたが(※1)、そもそもからして、ぼくは、昨今のエピック・メタルがクドくて苦手だ。
どいつもこいつもシンフォシンフォで差別化できなくなった挙げ句、ごっちゃごちゃ無駄に塗りたくっては大仰比べのインフレバトルに陥った「エピック病」のメタルが苦手だ。
クワイヤとオペラティクスをマシマシのギトギトの上に、オーケストレーションをべっちゃべっちゃに塗りたくって、ハイ大仰、一丁。
ぼくの心の中の勇次郎が一喝する。
「上等な料理にハチミツをブチまけるがごとき思想!!」と。
俺が聴きたいのはメタルであって、オペラでもオーケストラでもねーんだよ!
…おっと失礼。情動のあまり第一人称も変わっちまった。だがつい衝動的に、そう思ってしまう。
いや、わかっているのだけど、それはあくまで世界観を味付けするためのものであることは十分わかるのだが、それでも度が過ぎるものには苦手反応してしまう。
だから何でもかんでもごちゃごちゃと大仰アレンジしたがる昨今の欧州趣味全開メタルの風潮には、とてもついていけない。
いいとか悪いではなく、苦手なのだ。
そして。
POWEWOLFの過剰さは、そんなぼくの苦手意識を際立たせてしまっていた。
芝居がかったオペラみたいな歌と、バッカンボッカンのオケアレンジ。これでもかの、クワイヤ。
こりゃあかん。
そう逃げ出して、レビュー候補から外すことにした。
さて、どうしようか今週の空いたガチメタル枠。
…などと別段決めているわけではないが、しかしちょっとした気まぐれで試してみたのが、こいつらだ。
BLOODBOUND。
メイク系欧州メロパワ繋がり、というわけではない。
ただの偶然だ。
どうやらこれが9thフルレンスという、スウェーデンのメロディック・パワー・メタル・バンド、らしい。
ピクリ。
北欧メロパワものへの警戒心が反応する。
こっちもこっちで、おキレイ過ぎるのが苦手だ。メタルのアグレッションがないのが、それもそれで苦手なのだ。
偏食家で申し訳ないが、ましてやPOWERWOLFの過剰さが余りに受け付けなかった分だけ、過敏に反応する。
もう一度言う。
そもそもからして、ぼくは、最近の欧州に多いインフレ・エピック・メタルが苦手だ。
「おシンフォ」をべっちゃべっちゃに塗りたくって、ハイ大仰、一丁、はダメなのだ。
そんな原理主義メタルハートの警戒レベルを高めながら、恐恐と聴き始める。
…うん。
イケる。
アリだ。アリだぞ、これは。
いや、いいじゃないか。
普通にメタル、じゃないか。
普通にイイ、ではないか。
まず、エピカルだが、その色味がマイルドなのが嬉しい。
クワイヤで盛り上げ、シンセで綺羅びやかに劇性を彩ってはいるけれど、その味付けが程々だ。
他のアルバムがどうだったかは知らないが、少なくともこのアルバムは、そう作られている。
おかげでメタルとしてのダイナミクスが、素で伝わってくる。
しかもメロディックだが、エッジがしっかりあるのもいい。
なかでも個人的には、#5”Eyes Come Alive”。ペインキるかのように鋭角で重厚な攻撃性とシンガロングなサビメロとのコンビネーションが、実に胸アツだ。
それに、作りがしっかりしている。
まずはアコースティックなイントロからの、畳み掛け疾走ナンバーへ。
そんなお約束のオープニングから始まって、スピードチューンあり、くだんのような鋭角と重みあるメタルナンバーあり、メロディックなミドルナンバーあり、フォーキーな望郷の味付けあり…。
その盛り合わせの良さもさることながら、しかもそれらがとにかく色々と、程良い。
メロディ、スピード、パワー。
いずれも程良いバランスと色調で、調和を損ねていない。
やり過ぎず、ドギツすぎず、統制が効いている。
極めて真っ当にメタルを、正しく行っている。
反面、それはそれで何というか、どこかで聴いたようなテイストばかりというマイナス点が、ないわけではない。
要は、あちこちからネタを集めては、それっぽく盛り付けてみました、みたいな美味しどころの「寄せ集め感」。
つまりは彼等ならでの「これが」というものがあまり見えないのだが、しかし。
逆に言うなら、突出した「これが」がないぶんだけ、どれもこれも手先器用によく出来ている。
いや、変な意味でも何でもなく、寧ろ良い意味で「普通にイイ」。
そう。要するに、「普通にイイ」のだ。
普通にイイ、高品質の北欧メロディック・パワー・メタル・アルバム。
こういうのってなんだかんだで、やっぱり重要だ。
際立つだけがロックじゃない、メタルじゃない。
過剰さも、あっていい。
エクストリミティも、ロックの醍醐味だろう。
そういうメタルだって、ぼくは好きだ。
でも、一方で程良さってのも大切だ。
適切でバランスよく、高品質、高完成度。
それだって同じ位に大切だ。
やりすぎと、やりすぎないこと。
どっちが、ではない。
メタルにはどっちもあったほうがいい。いや、あるべきだ。
※1:こちら↓をどうぞ。
★追記(2021年07月31日)
「今週のチェック」から引用。
これが入門盤で他を知らないのであんま何とも言えないのだけれど、彼等の場合しっかりとキャッチーなサビを用意しながら、「この曲はこれ風にしてこれで盛り上げて…」とそこに当てはめていくような、丁寧な作りしてる印象。
だからバラエティ豊かめなのにバラつかず、聴きどころが盛り込まれている。その中でも個人的にはレビューでも触れた、「PRIMAL FEARがペインキってみました」みたいなM5″Eyes Comes Alive“(↓)とか好きっすねぼかあ。
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- アーティスト名:BLOODBOUND
- 出身:スウェーデン
- 作品名:「Creatures Of The Dark Realm」
- リリース:2021年
- MELODIC POWER METAL、HEAVY METAL他