GARBAGE/No God No Master:75p
GARBAGEが、久しぶりにスタジオ・アルバムを出すらしい。
へえ。
そう思って軽い気持ちでこの新作に向かってみれば、タイトルは「NO GODS NO MASTERS」だという。
え、なんだって?
「NO GODS NO MASTERS」。
つまりは、「神も支配者も、いない」。
……えーっと…。
意味はよくわかんないけど、何やらやったら重いこと言ってるのだけはよーく伝わってくる。
で、そう書かれたジャケットアートには上の通り、何だろ、天使像だろうか。
それが例のGARBAGEカラーの真っピンクに染められていた。
ついでに言うなら、意識的なのか何なのかバンドロゴに使われている字体はかのアナーコパンクTHE CRASSのそれと同じである。
まあこりゃアーミーフォントの意でもあるだろうが、いずれにしたって臨戦態勢、バトルモードの現れだ。
これは一体、どうしたことか。
1995年、かつてグランジ・ムーブメント真っ只中にNIRVANAのプロデューサーバンドとしてデビューを果たした1stアルバムジャケでは、柔らかな羽毛を真っピンクでポップに染めていた、あのGARBAGEが、である。
2001年の、3rdアルバムジャケでは、美しきGARBAGE(「Beautiful Garbage」)を名乗りながら今度は薔薇の花を真っピンクでエレガントに染めていた、あのGARBAGEが、である。
ちなみに前スタジオ・アルバムだって、ピンクカラーではなかったけれどタイトルは「Strange Little Birds」という可愛らしいものであった。
しかし、だ。
それがたった5年後には、同じ様に染められた真っピンクで「神も支配者もいない」、である。
変わり様にも程がある。
いや、判っている。
そのピンクは、元よりフェミニンを意味しない。
寧ろそれはどこかキッチェであり、ある種の毒が仕込んであるものだ。
サウンドも然りで、そんな甘たるいものじゃなく、そこには陰りとトゲが常にあった。
それがGARBAGEであることはもうかれこれ20年以上もの付き合いだ、よく知っている。
しかし、とはいえこれは何なんだ。
恐らくは、ピンク色の世界から何かを見たGARBAGEが、激しくその何かを訴えようとしている。
そうとしか結論づけられない、新作だ。
そう戸惑いながら再生を押せば、なんと。
ヂャリンヂャリンヂャリンヂャリン…と止めどなくコインが落ちてくるイントロに続いて、姉御シャーリー・マンソン(Vo)があぎとを尖らせて唸っているではないか。
金だ金だ金だ金だ金だ金だ金だ金だ金だ金だ…と。
そしてそこには、いつもよりもダークでエッジィなサウンドをまとった彼等がいた。
確かにこれまでも陰りもトゲもあったけれど、いつものそれは違うテンションで、いつもよりごっそりと影をまとい、そしていつもよりも激しく刺々しい、あのBeautiful Garbageがいた。
一体どうしたんだ、GARBAGEよ…。
違う。
そうじゃ、ない。
どうかしているのは、GARBAGEではない。
どうかしているのは、ぼくらのこの世界のほうだ。
それを横目でスルーして、気づかないふりをして、他人事として生きているこちらのほうだ。
この世は、いつの間にか余りにも歪んでしまった。
余りにも病んでしまった。
余りにも闇が広がった結果、クソみたいなことばかりがおこってしまった。
余りにも矛盾したことが、横行してしまった。
そして余りにも、狂ってしまった。
ピンク色の天使が叫んでいるのは、そのことだ。
世界的パンデミックと、その混乱。
人種差別。
性差別。
資本主義の腐敗。
自由と平等の侵害。
中流階層の分断。
貧富差の拡大。
そして、いつまでも続く不安定な社会…。
それらに対して珍しくGARBAGEが、歪みに、病みと闇に、クソに、矛盾に、狂気にナイフを立てようとしている。
#1”The Man Who Rule The World”(↑)から、#2”The Creeps”へ。
そして#6”Godhead。
それらに込められた意思は、音像ともに明確だ。
重いデジタルビートとギターリフは、インダストリアルとポストパンクとオルタナティヴを行き来しながら、現代の病理をも刻もうとアルバムを進めていく。
金だ金だ金だ金だ金だ金だ金だ金だ金だ金だ…。
デビューから、25年。
すっかり成熟したオルタナ・デジタルポップバンドが初めて見せた、激しく、そしてストレートにポリティカルで、そしてメタリックなまでのGARBAGE。
勿論ながらぼくはそんな本作も、全然嫌いではない。
そう、ポップでロマンティックなだけが、GARBAGEじゃない。
これはピンク色の世界の天使GARBAGEの、もう一つの姿だ。
★追記(2021年07月17日)
「今週のチェック」から引用。
ヘヴィでポリティカルな、いつもより数倍マシの毒素を備えた、2021年の成熟した大人らしい棘を備えたGARBAGEの新作。
これ、なかなか良いですね。ぶっちゃけレビューでそう煽っているほど、いつもからそうかけ離れているわけでもシリアスでもないのだろうけど(笑)、でもほんの一匙、いつものGARBAGEにダークでメタリックな色合いを加えているのが、面白い。
まあ、アルバム本編についてはレビューに書いたままなので、ここでは「デラックス・エディション」に付いてくる、ボートラについて加筆しておく。
このアルバムの「デラックス・エディション」(Spotifyにも収録)には、ここしばらくの未発テイクが収録されており、それもまた興味をひくものばかりだ。
例えば、”Starman“は、ご存知の通り、デヴィッド・ボウイのかの有名曲、アレのカヴァー。
まあ、これは割とありきたりのアレンジか。寧ろやや意外…では別にないけれど興味深いのが、PATTI SMITHの”Because The Night“か。
そりゃハマるわな、というシャーリー・マンソンの歌だが、なによりもギター弾きまくりのアレンジで、グランジィなロウさながらも熟練しつつも熱気ある演奏がカッコイイ。それからTHE DISTILLERSのブロディ・ドールとのW姉御共演な”Girls Talk“。
そしてブライアン・オベールと共演した”The Chemicals“が、ざらついたドライな哀感を滲ませ歪んでいてかっこいいので、ここに貼っておく。
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- アーティスト名:GARBAGE
- 出身:US
- 作品名:「No God No Master」
- リリース:2021年
- POPS、ALTERNATIVE ROCK、INDUSTRIAL、ROCK、他