伸び切った髪を切りにこれからヘアサロン行かなくっちゃいけないんだけど、おっとその前にちょっくらやっておこうか、コオヒイひいてレコオド流して休日恒例ヴァイナルカフェ。
アルバムは、先月から引き続いてヘヴィロテ中なこれを。
そして今朝のお茶請けは、娘ちゃんが焼いてくれたさつまいもケーキ。うまー。
CINDERELLA/” Long Cold Winter”(1988)

CINDERELLA”Long Cold Winter”
先日、息子の高校の卒業式に行ってきた。
月並みながら子が育つというのは全くもって早いもので、思えばついこの前までちっこいガキだと思っていた彼は、いつの間にかいっぱしの青年になってしまった。
そうだ。
いつの間にか、子は大人になっていき、いつの間にか自分はおっさんになっていき、そしていつの間にか「あの頃」は遥か遠い昔のものになっていく。
全く、時間の流れとはかくも容赦なく過ぎゆくものなのだな。
そんな感慨を抱きながら朝から参列した式が終わったのは、かれこれ既にお昼手前のことだった。
折角の機会だから家族一緒に回らない寿司でも食べに行こうと思っていたのだが、しかし息子はそんなことなどお構いなく、クラスメイトらと行ってくるとの返答が。
まあ卒業だから仕方ない、ならば晩に焼肉でお祝いでもするか、と嫁さんと買い出しに寄って帰ってみれば、今度は夜に部活の皆で集まるのだと一報が届く始末だ。
まったく受験以降のこいつときたら、ぷらっと家を出ていっては、いつ帰るかおよそ分かったもんじゃない。
大体今夜も今夜で一体街中のどこをふらついているやら、あとで聞けば学校の友人らとファミレスにたむろしダベっては、帰ってきたのはぼくが酔って寝付いた後の午前様だ、とのこと。
でもそれとて正直、全くわからないわけじゃない。
何せ彼が今いるのは、先月にもここに書いた「しょうもない春」なのだ。
大学受験という長い冬を終えて、やっと迎えた春なのだ。
しかも同じ境遇の同級生ばかりに囲まれ、迎えた高校の卒業。
開放と自由。別れと、これから待つ新生活への、不安と期待。
それらを仲間たちと共有しながら、次なる旅立ちを目前に迎えた春なのだ。
はあ。
ぼくはやむなきため息を小さくもらしては、このレコードを肴がわりにしながら、スピーカーを前に晩酌のグラスを傾けるのだった。
CINDERELLAの、「Long Cold Winter」。
皮肉なことにうちの小僧はシンデレラどころか、最早12時の鐘が鳴ろうがお構いなく帰ってきもしなくなってしまったが、それでも今のぼくの気分にはちょっとばかり時期の遅れたこいつが丁度いい。
こないだ開封したばかりなこのバーボンにもよく映えるし、何よりそのブルージーな歌声が「あの頃」の思いに浸らせてくれるじゃないか。
まったく、「あの頃」のロックは、どうしてこんなにまばゆいのか。
判っている、よく判っている。
我ながらその理由はいたって至極、明解だ。
まばゆいのはそのロックのみならず、「あの頃」だからだ。
そう、1989年の、丁度今時分。
いつの間にか遠い昔となってしまった「あの頃」、ぼくもやっぱりそういえば同じように、長い冬(Long Cold Winter)を終えて春を迎えていたのだっけ。
BON JOVIに見いだされた弟分として80年代半ばに登場した、トム・キーファー(Vo)率いるCINDERELLA。
1986年ののデビューアルバム「Night Songs」では、そんな彼らのグラマラスさを体現しつつも、しかし他方ではその名に反するかの硬派で屈強なLAメタルを標榜していた。
そして続く1988年の本2ndアルバムで、バンドはそこからさらにステップアップ。
80年代末期のブルーズ再評価の動きやそれに伴っての70年代ロック回帰といった当時のシーンの動向にあわせながら、キーファーのソウルフルな歌声にあわせて渋めにレイドバックしたブルーズド・ハードロックに大きく踏み込んだのだ。
これまでの派手で綺羅びやかなヘアメタリック・イメージから一転、真っ白なジャケアートに象徴されるような、シンプルな本物志向。
やっぱりぼくは彼らの最高傑作といったら、断然にこのアルバムだと信じて疑わない。
のっけから響く、ハープとドブロのスライドギターによって導かれるかの、泥っぽいデルタブルーズ。
そしてキーファーによる、ジャニス・ジョプリンばりのしゃがれた深みある歌声。
スパンコール畑の若手ハードロッカーが、2ndにしてこれ、やるか?
と当時はこのオープナー、A1“Bad Seamstress Blues/Fallin’ Apart at the Seams”のド渋さに皆驚かされ、唸らされたものだが、しかも後半、B面にひっくり返すとタイトルトラックB1“Long Cold Winter”ではよりに増して一層ディープなコクのある南部臭をまとってみせるではないか。
更には、埃立つようなアーシーさとロックンロールの若々しい躍動グルーヴの織り合わせが心地よいシングルカットチューンA2“Gypsy Road”や、キーファーのディープな歌が染みる名バラードA3“Don’t Know What You Got (Till It’s Gone)”…。
これらによってCINDERELLAというバンドは、これまでのゴージャスに着飾ったLAメタル組から一躍、GREAT WHITEと並ぶ本格ブルーズ回帰ガチ勢ハードロックの騎手と印象つけることに成功。
そのまま自ずとそのブルーズ沼の泥濘へとズブズブ深く入り込んでしまうのだが、しかし。
同時にそれは、作品の地味化を進めるとともに、90年代という新時代の大波を真正面から受けるさだめをも意味していたのだった。
そしてその結果、アルバムを重ねるとともにバンドの存在感は残念ながらより希薄なものとなっていき、やがて90年代半ば頃、彼らは静かにシーンから消えていってしまう。
なんてことはない、あの時代にぼくらが繰り返し何度もよく見てきた、80年代HR/HMバンドの寂しくもありがちな行く末だ。
季節はめぐり、冬が終われば、春が来る。
月日は流れ、一年が、十年が、何年もが流れていく。
思い起こせば30年以上も前のこと。
ぼくにとっての長い冬を終えて迎えた、1989年の春。
このアルバムは、そんなあの春をふと思い出させてくる一枚だ。
ぼくの息子が丁度今そこに立っている、あのまばゆいばかりな春に鳴っていたロックの一つだ。
そして、きっと。
やがては彼も、この春のことをふと懐かしく思うときがくるのだろう。
あるいはひょっとしたら彼が今聴いている音楽もまた、やがては彼にとってこの春を思い出させてくれる存在となるのかもしれない。
ああ、そう。かつてのぼくにとっての、このアルバムのように…。
もう一度、言おう。
「あの頃」のロックは、どうしてこんなにまばゆく映るのか。
その答えは、ただ一つ。
あの春が、それだけまばゆいからなのだ。

CINDERELLA/” Long Cold Winter”(1988)
- アーティスト名:CINDERELLA
- 出身:US
- 作品名:「Long Cold Winter」
- リリース:1988年
- ジャンル:HARD ROCK, AMERICAN HARD ROCK, LA METAL,HR/HM
よって、そのほとんどが70~80年代の古いものばかり。
尤も音楽批評というかしこまったものよりは、大概がただの独り言程度のたわいない呟きなので、ゆるーく本気にせず(笑)読んでいただければ幸いです。