お盆休みでもコオヒイひいてレコオオド流して、休日恒例ヴァイナルカフェ。
参っちまうなあ、ったくよお…。
GUNS N’ ROSES/「Appetite for Destruction」(1987)
実家の離れにぼくの部屋があったからだろう。
すでに昭和が終わって平成が始まり間もない頃のこと、ぼくの部屋は若さと暇を持て余した地元の仲間どもが大量に毎晩たむろする、絵に書いたような所謂「たまり場」となっていた。
北関東の、今よりはもう少しだけ活気のあった、とある地方都市。
世に謳われていたバブルなるものもよく伝わってこなかったあの時代の、東京への憧れがクソみたいに染み付いて窒息しそうなほど呪わしき田舎街に作られた、ぼくだけの基地。
ぼくが心許す連中だけが入りびたることの出来る、8畳ばかりのぼくだけの空間。
ここで、ぼくは青春とやらをとくと味わった。
酒もタバコもセックスも、みんなこの頃にここで覚えた。
当時、多い夜には、十人以上がダベっていたんじゃないかな。
ロック好き。不良。真面目っ子。今でいうオタク。そのどれとも言えないやつ。そのどれでもないやつ。
色々な連中がぼくの部屋には毎晩集まっていて、でもみんながみんな、ぼくの大切な地元仲間だった。
そしてそんな連中の中に、あいつはいた。
というかあいつは、いつも何故か毎晩、ぼくの部屋にいた。
暇だった、勿論それもあるけど、でもあいつ自身がすごく楽しかったんだろう。
下手すりゃ部屋のあるじのぼくがいなかったり、やもすれば彼女を連れ込んできている晩ですら、あいつはお構いなしで入りびたりこんでいた。
デリカシー、思えばあいつはそれがちょっと足りてなかった。
だけどその部屋はとても限りなく自由で、いや少なくともぼくにとってはそうで、そこでぼくらは朝まで一晩中ずっとロックや音楽を流し、映画を流し、ギターを弾き、ゲームをして、漫画を読んで、そして果てしなく下らない馬鹿話ばかりをしていた。
しかしあいつは、いっつもぼくの部屋に入りびたってはいるんだが、にも関わらずロックは全く聴かずギターも全く触らず、ぼくとは一切ありとあらゆる趣味が合わなかった。
あいつはいっつもぼくの部屋にいて、だけど車とバイクと機械とテクノと邦楽好きのド理系で、本当にぼくとは好きなものが正反対なくらいに合わなかった。
でもあいつはそういうぼくの価値観や「好き」を認めてくれたから、ぼくはあいつがいたからこそ、趣味や興味なんて何一つ合わなくても仲間にも友達にも親友にもなれることを、そこで知ることが出来た。
言っておくけど、「多様性」なんて語られるどころか認知すらもされていなかった今とは違う、30年以上も前の昔話だ。
だけど。
そんな時代もやっぱり長くは続かなくって、間もなくぼくらは大人になって。
ぼくも大学生になって東京に出て、そして社会人となって、結婚をして、家庭を作って、子供が出来て、親父になって、はたと思えばいつしかいいおっさんになっていた。
そして。
あの時代、あの部屋に毎晩入りびたっていたあいつもまた同じく大人になり、あの田舎街に住み続けて実家の家業を継ぎ、だけど結婚はすることなく、そのかわりでもないだろうが地元の青年団なんかを束ねては。
そんな現状報告話を年末年始やらでたまに地元仲間で集まったときに聞くくらいになっていき、そしてやがてはそれすら数年おきのものとなっていった。
ステージ4、末期癌。
恐らくは数週間すら、持たないだろう。
そう伝え聞かされて愕然としたのは、つい先日のことだった。
何せここしばらくは新型コロナウイルスのこともあって、なかなか地元の皆で会って話せるタイミングすら難しかった。
いや、判ってる。そんなことはただの言い訳だ。
年寄りはいつだって、自分以外の周囲の何ものかのせいにしては、責任から逃れたがる。
SNSもスマホもあるこのご時世にあいつとの連絡が疎遠になったのは、きっとぼくの怠慢のせいなのだ。
だけどそんな迂闊なぼくがその真実を知ったとき、既にあいつは病院から出れない身となっていた。
しかも現実というものはいつだってひどく残酷で、すでにあいつはモルヒネまみれのターミナルケアでもう意識すら危うくて、面会謝絶。
次にあいつと顔を会わせられるのは何らかのかたちであいつが病院から出るときだという。
そして恐らくは、そのときはもう…。
なあ、あいつよ。
お前とぼくは、本当に最後の最後まで、笑うくらいに趣味が合わなかったな。
でもぼくは、なのに互いの違いを認め合える関係性が、とても心地よかったよ。
なあ、あいつよ。ぼくの価値観をあのとき、認めてくれてありがとう。
それはとても大きな、後のぼくの宝になったんだ。
多分、あいつとはもう会ってそんな話すらも出来ないのだろう。
でもあいつは、向こうに行ってもきっとぼくを認めてくれるんだろうな。
趣味も、感性も、性格も、人間性も、価値観も、センスも、女の好みも恋愛も、考え方も付き合い方も生き方も、何もかもが自分と根底から違っているそんなぼくのそこがいい、ってあいつだけは認めてくれるんだろうな。
お前って、こういう俺がわからないのをいつまでもやたらと好きなところがすげぇいんだよって。
お前とは、そういう俺と全く真逆に違うところがずっと楽しかったんだよって。
だから、お前とは親友になれたんだよって。
そうだ、だからこそ。
次にあいつの顔を見るときには、ぼくも必ずそうやって笑ってやろう。
お互いに全く違って生きて、だからこそ最後まで全く楽しかったな、ってあいつに笑ってやることにしよう。
こんなアルバムばかりを流しながら、飽きることなく一晩中ダベっていたあの夜から30年以上も経った今朝。
ぼくはそう、心に決めることにした。
- アーティスト名:GUNS N’ ROSES
- 出身:US
- 作品名:「Appetite for Destruction」
- リリース:1887年
- ジャンル:HARD ROCK、ROCK &ROLL、BAD BOYS RnR
よって、そのほとんどが70~80年代の古いものばかり。
尤も音楽批評というかしこまったものよりは、大概がただの独り言程度のたわいない呟きなので、ゆるーく本気にせず(笑)読んでいただければ幸いです。