今ここに歌うべき唯一の理由~HUNDRED REASONS/”Glorious Sunset”:78p

HUNDRED REASONS/"Glorious Sunset" アルバムレビュー
HUNDRED REASONS/"Glorious Sunset"
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HUNDRED REASONS/”Glorious Sunset”:78p

HUNDRED REASONS

HUNDRED REASONS

2000年初頭、華やかなりしニューメタル全盛期。
いや、あの頃はまだ「ニューメタル」なんて呼び名は全くなくって、当時それらは大きく大雑把に「ラウドロック」なんて、一括りにされて呼ばれていた。

いわずもがなその主戦場は、米本国市場だ。
そこにはKORNMARILYN MANSONという90年代を継承する重鎮の一勢に続き、ヤカラ代表格LIMP BIZKITとそれに続く優等生LINKIN PARKが新時代の幕開けの寵児として抜擢。
そして少し後をキャラものから頭角をめきめき表してきたSLIPKNOTが追いあげながら、その後続には壮大な一軍がゴロゴロ控えていた、あの時代。

やれ「メタルコア」だの「スクリーモ」だの「カオティックハードコア」だのってのはまだもうほんの少しだけ前夜で、かろうじて「エモ」や「メロパンク」といった90年代末期からのパンクの動きだけがそこに帆走しては、BLINK182ZEBRAHEADとがその旗手を務めていた、あの時代。

こうした米国シーンでの大きな躍動に対しては距離を置いていた英国シーンではあったが、しかし。
少なからずそこに共鳴していた一群が、彼の地にも確かに存在していた。

例えば、LOST PROPHETS
「UKラウドロックの申し子」と、ちと懐かしい響きを含めて呼びたいその代表格といったら、何をさておき彼らのことだろう。

更にはその他に、「スマパンへのイギリスからの返答」と呼ばれていたFEEDERも(少なくとも)当時はその一連の動向の一員に含まれていたし、ぼくは当時、「PANTERAへのイギリス以下略」こと英国が放った双頭の狂犬RAGING SPEEDHORNが大好きだった。

このように、ゼロ年代初期UKニューメタルというのは、めっちゃポップか、じゃなくば何処かちょっとこざかしスマートにオシャレぶっていて、或いは頭悪い枠かってな感じの、散り散り模様。
そもそも本場じゃないからそこまで盛り上がることもなくって、そういうのはオラつきマッチョの本場アメリカにまかせておけとばかりにそっぽを向いたまま、間もなく数年後に押し寄せるガラージ・リバイバル、ポストパンク勢によって最早跡形もなく押し流され、そしてやがて筆頭LOST PROPHETSも山口メンバーしてしまった挙げ句、存在自体がロストされていくわけなんだが。

さあ、ここでようやく本題だ。
そもそもこのHUNDRED REASONSというバンドは、あの頃からすれば「ゼロ年代の英国ラウドロック」という微妙な程度に特異な存在感を、ポップパンキッシュなサウンドと方向性で訴えていた、ぶっちゃけマイナー目なバンドだった。

2002年のデビューアルバム、「Ideas Above Our Station」
これが恐らくは、早くもバンドの代表作なんだろう。
話題、と言うほどには当時はならなかったが、それでもゼロ年代ラウドロックシーンへの英国からの挑戦、という位には認識が広まった。

とはいえ、そのサウンドは今からすれば「エモ要素を含んだポップパンク」と言った印象で、本音を言うなら紋切り型の凡庸明朗ポップサウンドが羅列しただけ、というそこまで大したもんじゃなかった…記憶がある。

しかし、それを脱皮させたのは、そのヘヴィネスとグランジ色と初期HOOBASTANK色をぐっと深めた2004年の続く2ndアルバム、「Shatterproof Is Not A Challenge」だった。

なかでもそこに収録されていたM4“What You Get”はすこぶる名曲で、ぼくはこれを隠れた英国ニューメタルの一枚だと未だに思っている。
と言っても、そんな枚数もあるわけでもないのだが。

さて。
そんなHUNDRED REASONSだが、残念なことにセールスには恵まれなかった。
だからこのアルバムも割と迷走扱いで、しかもこの後からは消息不明。
…でもないのかもしれないが少なくともぼくの耳や目には入ってこなくなり、そして知らない間にその名を聞く(見る)ことはなくなった。

よくある、いや、よくあった、あの時代の話だ。

HUNDRED REASONS
そんなことだから、今年になってその名を目にしたときには、思わず心の中で二度見した。

え、あのHUNDRED REASONS、だと?
あの時代の、初期ゼロ年代UKラウドロックの藻屑と消えていった、あのHUNDRED REASONSがこの2023年にもなって新作を出した、ということ…なのか?

そう。
なんでも、あのHUNDRED REASONS、これがどうやら16年ぶりのアルバムらしい。
へえ。あのHUNDRED REASONSが、ねえ。

そうだ、そうなのか。
あれから、16年以上も経ってしまったのか。
最早、「ラウドロック」って何それ?あ、ニューメタルのことね。
ゼロ年代に、そういう呼び方が、あったらしいね。
と、そんなこの令和に、まさかのあのHUNDRED REASONSだ。
あのHUNDRED REASONSが、この今に一体何を歌う理由があるというのだろう。
そのREASONを知りたくって、思わず本作に向かい合った。

叫んで、いない。
歪んで、いない。
汚れて、いない。
陰って、いない。

そういうラウドな要素が、REASONが、ここにはない。
自らをラウドなロックに見せるためのREASONが、ここには全く、ない。

言ってしまえば、普通になった。
ごく普通の、UKギターロック。
ここから伝わるイメージはそんなものでしかないのだが、でもしかし。

そうなんだ。
HUNDRED REASONSって元々、そういうバンドなんだ。
奇を、衒わない。
特別だって、絶対だって、唯一だって、思わない。
ごく普通の、ありきたりの、なんてことのないロック。
でも、それが、なんだか心地よい。
16年も時間が流れて、今ここでそれを知らされる。
いや、16年の時間の果てに、そもそもそういうバンドだったことを、彼ら自身が伝えようとしている。

例えば、オープナーから明朗快活な、M1“Glorius Sunset”
或いは例えば、力強くもどこかノスタルジックな、M2“New Glasses”
或いは例えば、いかにもポップメイカーな彼ららしいアンセミックなM8“So So Soon”…。

そうした楽曲勢から伝わる、なんてことのない、ありきたりな、ごく普通のロック。
なんてことのない、転がりきらめくポップネス。
その、なんてことのなき、地味ながらも実直で確かなロックバンドとしての訴求力よ。

そうか。この、ポップだ。
彼らが今、時代を超えて今ここに改めて歌う理由に、百も、もういらない。
というかもともとからして、そんな百なんて実はいらなかったのだ。

20年以上もしてやっと伝わる、そのたったひとつの、歌う理由。
それは、普遍的なポップソングを歌う、ということ。
それこそが16年を経ての回答なのだ、と「百の理由たち」が、今、ここにそう歌っている。

HUNDRED REASONS/"Glorious Sunset"

HUNDRED REASONS/”Glorious Sunset”

DATE
    • アーティスト名:HUNDRED REASONS
    • 出身:UK
    • 作品名:「Glorious Sunset」
    • リリース:2023年
    • ジャンル:
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