SILENT WINTER/Dragons Dance:82p
ロックバンドにとって、「洗練」をどのように進めるか、というのはかなり難しい問題だ。
そりゃ「洗練」されなければ、いつまでも磨かれず垢抜けないまま終わってしまうだろう。
加えてその洗練を重ねて成熟していくことで、音楽的な技量や深みや味わいが高まるのは間違いない。
しかし他方でそうした「洗練」によって失ったり、削られたり、損ねられたり、色褪せてしまったり、変質してしまうものもまた、その実大きなものだったりもする。
ましてや、ヘヴィネス、ハードネス、アグレッション、ラフネス、ファストネス、エッジ、初期衝動。
そうした要素に他ジャンルの音楽よりも強い美意識や重要な価値感を求めるこのメタルというロックにおいては、それはやもすれば致命的な刃として自らに向かいかねない。
事実、ぼくらは「洗練」が加わったことでその元来的な魅力を損なってしまったメタルバンドを幾つも幾つも、目にしてきたではないか。
つまりは、「洗練」されていないからこそ、美しい。
そういうメタルだって、実はある。
そして、そういうメタルが、ここにある。
ギリシャ発。
結成はそこそこ早かったようだが、本格的に活動を始めたのはテン年代後半であるという。
ぼくはこれまでを全く知らないのだが、本作はスタジオアルバムとしては2作目となるらしい。
その音楽性を一言で言えば、メロディック・パワー・メタル。
それも、ジャーマンメタルのそれに限りなく近いストロングスタイルのものだ。
HELLOWEEN、GAMMA RAY、BLIND GUARDIAN。
目指しているのは、それらのバンド、しかも彼等が最も充実していた90年代あたりの姿である。
何よりもその剛直さが、いい。
メロディ、スピード、そしてパワー。
この3つがしっかり備わっている。
つまり、激性がはっきりくっきり、備わっている。
ヘヴィネス、ハードネス、アグレッション、ラフネス、ファストネス、エッジ、初期衝動。
それがここにある。
しかもここ十年以上この界隈の流行り病である三大インフレ疾患、シンフォニック病・ドラマティック病・プログレッシヴ病がほどほどに抑えられている健やかさも、個人的には大々々歓迎だ。
(あくまでその「インフレ問題」、な!)
それでいて、その上で、シンガロングな上メロを随所で放ってみせる。
つまりはその攻撃性を緩めないままに、勇壮かつリリカルでフックあるメロが穿たれる。
だから高揚する。アガる。胸アツにならざるを得ない。
正しく、真っ当に、ド直球に、This is メロディック・パワー・メタルだ。
何せ冒頭からかっ飛ばしまくりで、前半全て疾走曲で埋め尽くしている。
ほとんど力技で、真っ向から斬りかかってくる。
オープナー、勇ましいイントロメロに続いて初速からMAXでぶっこんでくる、まるでRUNNINNG WILDを実際にワイルドにランニングさせたような#1″Gates of Fire“。
そして、そこから堰を切ったように畳み掛けるかの、怒涛の連撃また連撃。
この冒頭数曲で立て続き貫く畳み掛けこそ、このアルバム最大のキモに他ならない。
しかも、それを歌うヴォーカルのハイトーンのテンションが、レッドゾーンにまでブチギレている。
なんでもティモ・トルキのツアー用Voとして参加した、という経歴を持つというマイク・リヴァスなるシンガーだが、嬉しいことに高音域ではマイケル・キスクが増強剤ぶちこんで血管切れかかっているかの極上スクリームを見せてくる。
その力量もさることながら、この荒削りさが、いい。
それでいて楽曲作りの手腕も悪くない。
元々の高いメロディセンスをふんだんに注ぎつつ、押さえるべきを押さえ、聴きどころを各所に据えながらもコンパクトにまとまあげるその手腕は、十分に買えるものだろう。
ちなみに、#4″Mirror“や#5”Hunter’s Oath“あたりは高揚感の中であの時代の熱きジャーマンメタルの思いに浸れる楽曲で、今回特にぼくのお気に入りのナンバーだ。
更に言うなら、タイトルトラック#7″Dragons Dance“(↓)。
思わず心の童貞ジャーマンメタルハートをズキュウウンされてしまったあまりに、拳握り悶絶しかけてしまった。
全く、いい年こいて、である。
強いて言うなら、反面、ミドルテンポ曲になるととたんに弱さを露呈するのは否めない。
が、んなこたあクソほどの些事。そっちじゃねえんだよバカヤロウ。
いいじゃないか。
いいバンドじゃないか。いいアルバムじゃないか。最高じゃないか。
野暮ったい。
むさ苦しい。
雑だ。
熱度が高すぎる。
その通り。
そこが、いいのだ。そこが、メタルなのだ。
と、そう頷くとき。
しかし、これってもしかしたら今こそが一番旬なんじゃないかという思いも、ふと脳裏をよぎる。
これに洗練が加わり、成熟に目を向けていくと、この魅力は大きく削がれてしまうのではないか。
そういう思いも、否定できなくなってしまう。
勿論、必ずしもそういうわけではない。
こないだ新作を果たしたHELLOWEENだって、少なくとも「Keeper Of The Seven Keys」2枚は、あれは初期に対する洗練がもたらした歴史的名盤だ。
しかし、皆がそうなれるわけじゃないし、彼等にもそんな「洗練」と果てしなく格闘した結果としてあれを勝ち得ているのだ。
はて、彼等がそれに一体今後どう向き合っていくのか。
尤もそれはここからもう少しだけ先の問題、まずはこの荒削りな秀作を味わうとしよう。
★追記(2021年07月10日)
「今週のチェック」から引用。
ギリシャに産み落とされたジャーマンメタル。
そんなこのバンドですが、熱いっす。
Twitterにも書きましたが、最近のこっち系ではズバ抜けてこれ、お気に入り。なんといっても、激しいのがいい。
ちゃんとパワーなメタルしているのがいい。
エッジィで、ソリットで、ハードで、ファストで、アグレッシヴで、パワフルなのがいい。
しかもそれでいて、メロディックであるという文句のないジャーマンメタル。あとつまんねーくせにダラダラウンコ垂れ流してる輩と違って、さっくり9曲でおしまい!っていう潔さもいい。
インフレしかないこの業界に学んでもらいたい。
ラストがカヴァー曲ってのもイカしてるぜ。あ、レビューで書き忘れた一点がそれだ。
ラストのカヴァーテイク、#9″Leave A Light On“の元曲は、ベリンダ・カーライル。
ベリンダ・カーライルといえば、みんな(おっさん)だいしゅきTHE GO-GO’Sですよ。で、その彼女が、ソロ活動で80年代末期に出したヒットシングルがこれ。
いかにも80年代アメリカンポップな明朗煌めきメロがたまらない名曲であります。このベリンダ・カーライルといったら80年代洋楽キラキラ☆パツキンアイドルなんだけど、10年以上前にサマソニに出てたときはまだかろうじて綺麗でしたね。今は知らんけど。
- アーティスト名:SILENT WINTER
- 出身:ギリシャ
- 作品名:「Dragons Dance」
- リリース:2021年
- MELODIC POWER METAL、GERMAN METAL、HEAVY METAL他