DREAM THEATER/「Lost Not Forgotten Archives : Train Of Thought Instrumenatl Demos(2003)」:52p
毎月リリース決定、DREAM THEATER公式ブートレグ・シリーズ第3弾。
つまり「月刊どりむし」第三号の9月号は、2003年の7thアルバム「Train Of Thought」のデモ音源集ということで、ヴォーカル録音前のインストテイクである、という。
まずは何より「Train Of Thought」というアルバムがすでに20年近くも前のものであり、あれからそのくらいの時間が経っている、という揺るぎざる事実が軽く目眩を起こさせるのだが、その話は静かにそぅ…と置いておこう。
さて、それはさておき彼らのアルバムの中でもダークかつヘヴィな作風として知られる、この「Train Of Thought」。
DREAM THEATERの歴史から見れば当時、「Metropolis Pt. 2 : Scenes from a Memory」(ぼくはこのアルバムと2nd「Images and Words」が個人的には最高傑作だと思ってもいるのだが)で広げた風呂敷をさらに「Six Degrees of Inner Turbulence」によってCD2枚組化させるという第一次インフレバトルに突入。
あれもこれもと盛り盛りモードでスカウターがぶっ壊れ始め、あわやメタルのダイナミクスを見失いかけたところを、このアルバムの力技でこちらサイドにどうにか舵切りさせたというかろうじての名盤であった。(その後は知らんが)
と、そんな名盤「Train Of Thought」のヴォーカルなしデモテイク集という、これまた評価の難しいブートレグを前にして、うーむ、と腕組みしながら唸ってみる。
まず、取り敢えずの前提論としてハッキリ白黒つけておきたいのだが、そもそもこいつはデモ音源集であって、あくまでも未完成品だ。
つまりはこのようにインスト作品として聴かせる目的で、そもそもからして作られては、いない。
なので、あくまでファン向けのサービス品でしかなく、「へえー、元々はこういうものだったのね」と完成品とは違った楽しみを味わうのが、本来の筋というものだ。
まずもって、それを踏まえての評価であることは、予めご理解頂きたい。
で、その上で本ブートレグに向かってみれば、そりゃ当然ながらジェイムズ・ラブリエのふくよかで情感に長けた歌が、どうしたって欲しくなるのは当然のこと。
それもあってか、ついつい、聴きながら脳内ラブリエ補完を施してしまう。
だって本来、そうして作られていたものが抜けてるのだから、そりゃ当たり前の話だ。
つまり、至極自明のことなのだけど、本作はインスト作品としてはひどく中途半端な出来損ないの作りでしかない。
そしてこのことは、先の通りに「いやだからインストテイクだけなんだから、そういうもんだろ」という話なので、一見、言うに及ばないことのようにすら、見える。
…そう。
「見える」のだが、実はそうじゃない。
むしろ、この「インスト作品としての中途半端さ」、すなわち「出来損ないとしての不足分」こそが、実は裏返しての本作最大の主張であり、存在意義でもあるのではないだろうか。
何が言いたいのか、つまりこういうことだ。
ことテクニカルなインスト勢によるプログレ的側面のみが大きく取り上げられがちな彼らであるけれど、しかしそれと実は同じくらい、DREAM THEATERというバンドというのは、優れた歌モノメタルとしての顔を持っている。
そしてそれが如何程のものだったのかということを、このデモテイク集は逆説的に訴えてはいないだろうか。その「物足りなさ」をもってして。
(少なくともこのアルバムの頃までは)
そう、あなたが恐らくはこのインストテイクを聴いて行うであろう「脳内ラブリエ補完」。
それを行っていることの、その事実性こそが。つまりはここでの欠損の大きさこそが、「ドリムシという歌モノメタル・バンド」としての秀逸性であり、存在感なのである。
例を出そう。
M1″In The Name Of God“は、言わずとしれた本アルバムのクライマックスをかざる長尺曲であり、中盤からの激烈ハイテクニカル・インストバトル展開で知られているナンバーだ。
それもあってなのか、あるいはデモレコーディングの順番なのかぼくは知らないけれど、いずれにしてもそれがこのブートレグの冒頭を飾るオープナーとなっているのが(色々な意味でも)象徴的だ。
となれば、ヴォーカルを加えていないのだから、より一層にそのインストの魅力が際立つのだろうか。
そう思いきや、さにあらじ。その実、そんなことは全くない。
少なくともぼくは、ラブリエパートのないこのインストを聴いて、「あれ、こんななんてことのない凡曲だったっけ?」と思ってしまったくらいだ。
だってその、なんとも平坦で、味気のないモノトーンさはどうだ。
そう、この楽曲にカラフルな色合いを与えていたのは、他ならぬジェイムズ・ラブリエの存在だったのだ。
その本来の売りであったスリリングなインストは、むしろ彼の歌が導くドラマ性の上でこそ、成立していたものだったのだ。
…なんて、そんなことはよくよく考えれば確かにそりゃそうなのだが、でもそうした再確認や発見を改めてさせてくれることこそが、この作品の何よりも面白いところだったりする。
ラブリエの歌があってこその、ドリムシ。
勿論彼ら自身がそこまで意識もしていなかろうし、これは元々そんな狙いもないただのサービス的なブートレグなのだろうが、しかし。
結果的にすら、それを不在性によって表すという逆説の主張を示した本作は、こういう場でしか見えないDREAM THEATERというバンドの魅力を写し出しているのかもしれない。
なお上の評点は、元来の本アルバムを「92p」とした上で、そこに足りていないラブリエ分を差っ引いたものとする。
つまりその低評価な差し引きの分だけ、バンドにおけるジェイムズ・ラブリエという要素が大きいのだという意味合いを込めてのものと、どうぞご理解いただきたい。
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- アーティスト名:DREAM THEATER
- 出身:US
- 作品名:「Lost Not Forgotten Archives : Train Of Thought Instrumenatl Demos」
- リリース:2021年
- ジャンル:PROGRESSIVE METAL、他