十数年ぶりに出くわした「THERAPY」と「?」~THERAPY?/”Hard Cold Fire”:80p

THERAPY?/"Hard Cold Fire" アルバムレビュー
THERAPY?/"Hard Cold Fire"
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THERAPY?/”Hard Cold Fire”:80p

THERAPY?

THERAPY?

いつもの新譜チェック日課を楽しんでいる最中、久しぶりにこのバンドの名を目にした。

いつ以来だろう。
情弱老害の身からすれば、十年は軽く経っているはずだ。

思わずその海外サイトにピックアップされていたPVを再生してみる。

ああ、こいつらだ。確かにこいつらだ。
しかし、年を食ったものだな。
あ、いや、違う。違うのだ。
彼らだけの話じゃない。何より、ぼく自身のことだ。
だってそりゃそうだろう、あれはもう30年も前の話なんだから。

THERAPY?
1990年前にはすでに活動を始めていた、ハードコアを出自として次第に時流を帯び、やがてグランジ/オルタナバンド側へと向かっていったアイルランドのパンクバンドだ。

90年代初頭にかけてイギリスで知名度を固めながら名を高め、それを受けての2nd「Troublegum」(1994年)がスマッシュヒット。
「シアトルグランジに対する英国からの回答」と当時呼ばれた音楽性には、しかし元がアイルランド発ということもあってか、イギリスシーンでは一風変わった硬派な男臭さを匂い立たせながらも、でいながら一癖あるグランジパンクサウンドが特徴的だった。

その後、次作3rd「Infernal Love」くらいまではそれなりに認知されてはいたものの、しかしセールス的には次第に失速。
バンド周辺もゴタツくようになっていって、いよいよ迷走が見られていくのが90年代末くらいからの頃だ。

とはいえ、その後もぼくなりにそこそこ追っていて、ゼロ年代半ばあたりまではちゃんとチェックしていたのだが、しかしながらそこらへんからすっかり離脱。
となると今回のこれは、下手をすれば20年弱ぶりの彼等のアルバムとなりかねない…って随分経ってるなやっぱり!

というわけでそんな本作は、34年ものキャリアとなる彼らにとって、なんと16枚目にもなるフルレンスだ。

尤も彼らとしてのアルバムスパンとしてはどうやら5年ぶりということで、いやまだ活動していたんだねえ…、とサボり身のくせにちょっと感慨深くすらなってしまった。

しかもそんな久しぶりのTHERAPY?が、割かしながらも相変わらずだという嬉しさよ。

思い起こせば彼等は、90年代末期の失速期前後から「新しい方向性にチャレンジ課すのが毎回のアルバムルーティン」という、ハタからすると「それって逆効果以外に何があんの?」なんだけど、でもおっさん化の進んでいく身からは「それやらんといかん」しか見えなくなるという、恐るべき「バンド老化あるある」の呪いにかかっていた。

そうだ、そのせいで何時となくこいつらから離れてしまったんだっけ…と遠い自らの記憶に触れた気もしたのだが、それはさておき。
いい加減、この令和になっておっさんすらも成りきった今となっては、最早これしか出来んと開き直るしかないのだろう。

かくして、これまでしばらくを知らないながら久方ぶりに向き合ったアルバムが、やっぱりもって「あのTHERAPY?」をちゃんとやってくれていることに、すっかりほっこり&これだよモード。

パンキッシュなエッジと、マッシヴな屈強さ。
そして90年代グランジを引き摺った濁りと陰りのなかに、昔とは少し違いながらもそれでも本質自体は変わらない、どこかひねくれたキテレツさがある。

このハードコアならではの切れ味ある硬質さに混ざり込むネジクれ感性こそが、実はTHERAPY?THERAPY?たらしめてきた側面的魅力に他ならない。
そう、これこそがTHERAPY?の、「THERAPY」ではなく「?」にはらむ、一筋縄にいかない醍醐味だ。

ちょっと最近のUKロック意識してみましたが香るオープナーM1“They Shoot the Terrible Master”に往年の悪癖が滲むものの、続くM2“Woe”はメロディックな歌メロに濁りあるリフにふと入るヘンなギターラインが彼ららしい。

しかもお次はくすみとイビツさが彼らならではの90年代グランジパンク、M3“Joy”や、M6“To Disappear”
この中盤戦が、如何にもだ。

そして何より、ダークな金属質とポップなサビがちぐはぐに混在するM7“Mongrel”と、アンセミックなセカンドPVカットチューンM8“Poundland of Hope and Glory”の2曲が、とりわけ今回は抜きん出て素晴らしい。

かと思えばBLACK SABBATHリフからいなたい哀感を放つ9“Ugly”は、かつてのこのバンドのゴツゴツした強靭な男臭さ~今となってはおっさんの加齢臭とすらなってしまっちゃいるが、勿論それも含めてたまらない。

アルバム1枚、31分強。
成る程、やっぱりあのTHERAPY?だ。
確かにあの「THERAPY」であり、確かにあの「?」だ。
あの無骨で剛健で鋭利な「THERAPY」であり、そして一方でヒネた感性をもみせる「?」だ。

そんな、30年経っても相変わらずだった本作。
ぼくはさながら道端でばったり昔の友人にたまさか出くわしては、おお久しぶりだな、十年は経ってるんじゃないか、などと立ち話を30分ほど楽しんでは、んじゃまた今度飲もうぜなんて小さく手を降って立ち去っていくような、そんなちょっと素敵ないい気分を味わうことができたのだけど。
でもそんな彼らのことを全く知らんという方々でも、こっから入るのも全然アリな作りになっているので、どうぞご安心を。

THERAPY?/"Hard Cold Fire"

THERAPY?/”Hard Cold Fire”

DATE
    • アーティスト名:THERAPY?
    • 出身:アイルランド
    • 作品名:「Hard Cold Fire」
    • リリース:2023年
    • ジャンル:PUNK ROCK、NOISE PUNK、GRUNGE、ALTERNATIVE ROCK、
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