それでも楽団は弾き続ける～NIGHT RANGER/「ATBPO-And The Band Played On」:75p

NIGHT RANGER/「ATBPO-And The Band Played On-」:75p

1997年に公開され世界中で話題になった、ジェームズ・キャメロン監督の映画「タイタニック」。
そう、ディカプリオとケイト・ウィンスレットが大型豪華客船の先頭に立って十字ポーズで風を切る、あの有名なシーンで知られるパニック×ラブロマンス大作だ。

知っての通りその大型船はやがて氷山にぶつかって沈没してしまうのだが、その沈みゆく船の中、少しでも乗客の不安を拭おうと、楽団が演奏を命を落とす最後の最後までやめなかった、というエピソードがある。

自分は演奏家だという使命とプロフェッショナリズムのもと、死を賭して弾き続けた、あまりにも誇り高きタイタニック船の楽団たち。
まあよく知られている逸話なのだが、しかしその楽団員であった２１歳の青年ヴァイオリニストを主役としてこのドラマを描いたノンフィクション小説が、その昔出版されていた。
題名は「タイタニック号の若きヴァイオリニスト～それでも僕は弾き続ける」。
原題は、「And The Band Played On」だ。

それでも楽団は弾き続ける。
先日リリースされたばかりの、それと同じタイトルを冠したアルバムが、今日ここに選んだ一枚だ。
再結成NIGHT RANGERによる、４年ぶりの新作フルレンス。バンドトータルでは通算１３作目である、という。

ここ十年、いやそれ以上か。個人的な話ではあるが、正直言って、ぼくは再結成後の彼らに興味をなくしていた。

何か理由があったわけでも、何かに失望したわけでも、全くない。
ただ純粋に、単純に、シンプルに、もうNIGHT RANGERなんて聴かなくてもいいかな。そう何となく思ってしまい、出されるアルバムにも何らひかれることなく、スルーしていた。

だからやれ何作目だと今更言われても、前作から何年ぶりだと言われても、へーそうなんだ、くらいにしか感じない。
にも関わらずそんな新作にこうやって今向かっているのは、ただの気まぐれでしかなかった。
サブスクで音楽の最新作が聴ける時代になり、手元のスマホのSpotifyに彼らのニューアルバムがあがっていて、まだやっているんだ、と何となくポチっただけだ。

そう、まだやっていたのだ。
まだ楽団は弾き続けていたのだ。

1996年に正式な再結成を発表し、幾つかのアルバム（そのほとんどをぼくは聴いていないが）を製作し、知らない間にメンバーが替わり、ギターも替わり、いつの間にか80年代の絶頂期よりも再結成後の活動のほうが遥かに長くなり、それでもなお。
NIGHT RANGERは弾き続けていたのだ。

そんなNIGHT RANGERのこの新作はといえば、果たして往年の彼らを思わせるには年の食ったような、老熟した内容となっていた。
そりゃあそうだ、だってあれから30年以上も経っている。30年分の熟成だ。

しかし、その本質はそんなに大きく変わってはいない。
明朗快活、カラっと抜けたようなブライトな躍動感。
弾力に富んだ爽快ポップネスと、それを支える円熟した職人的な歌と演奏。
これぞアメリカンハードロック。これぞNIGHT RANGER。
そういう本質的な意味では、全く変わってはいないとも言えるだろう。

若かりし昔（解散前）に比べてアーシーな土臭い味わいが増したように思えるのは、作風なのか、はたまた年を増したからなのか、それともぼくが彼らから離れていたから知らないだけなのだろうか。
いずれにせよ、昔に比べればパンチとツヤが減っているぶんだけ、ルーツィな渋みが加わっている。
結果、往年のような一撃必殺のキラーチューンはなくなっていて、そこに最初物足りない違和感を抱いたけれども、でもそのぶんだけ、噛みしめる味わいが育まれている。
この、ゆったり身を任せながら「ああ、いいねえ」とじわじわ染み入ることの出来る深みと安定感は、今の彼らの最大の武器となっているのだろう。

そのうえで、M3”Breakout”（↓）のような哀愁をはらんだギターリフで駆ける姿を見ると、やはりあのNIGHT RANGERなのだなとニンマリさせられる。

久しぶり、というか随分と離れてしまっていたぼくにとっては、それこそ学生時代の同級生にばったりと出くわしたかのような気分にすらなってしまうのだが、しかし。
そんな間にも、彼らはこれまでずっと弾き続けていたのだな。弾き続けて、そしてここに至ったのだな。
そんな彼らの今が、よく伝わってくるいいアルバムだ。

「And The Band Played On」。
長らく彼らから離れていたぼくのような身にすらも、そのタイトルと内容は説得力をともなって訴えてくる。

そう、
NIGHT RANGERは、楽団はそれでも弾き続けてきたし、今も弾き続けているのだ。