IN FLAMES/”Foregon”:74P
かつて90年代にデスメタルと童貞臭いクサメロとを邂逅させることで、北欧メロディック・デスメタルの元祖となった彼ら。
本来ならゼロ年代に到来した花のメタルコア時代にはその先駆者とリスペクトされるべき存在だったはずが、当の本人達たるや世界デビューのキャラチェンでKORNらラウドロック一族の仲間入りを認めてほしさなあまりに血迷って、白衣姿でステージ上をぴょんぴょん跳ね始める羽目に。
これにはアメリカ人達も、このスウェーデンから来たバンドはウサギなのかオウムなのかとさぞかしミルコクロコップしたのだろうけれど、きっと当時は彼ら自身もよくわかんないままに白くしていたんだろう。
しかもそんな黒いや白かな歴史後も、やれメタルコアだ、スクリーモだポスコアだ、インダストリアルだと典型田舎ミーハーオヤジならではの香ばしき数周遅れ感性なつまみ食いを続けては、あれこれ色々と味変してきた挙げ句に至った前作「I, The Mask」ではついにその名の通りに、あれこいつらのマスクって最早メロデスじゃないし、モダンメタル?アリーナオルタナ?それともなんだっけかと、成り果ててしまう始末。
ところが今回のアルバムに先駆けて小出しにしたシングル曲が軒並みオールドスクール北欧メロデスなIN FLAMESのそれであったことから、ようやく原点回帰コレきたか、と一部念願と期待と悲痛の声も(おっさんたちから)聞こえてくるこの通算14作目。
さていかなるものか。
まずは冒頭から、いかにも北欧叙情を思わすかの侘びしげなアコースティックによって、その呪わしき魂を無理やり1996年へと強制転生せんと鳥の死骸抱えた幾千万ものジェスターどもが一斉にレースしだすM1“The Beginning Of All Things That Will End”。
ていうかこのわざとらしいイントロっている?アルバムタイトル「Foregon」にも現れている「ほらちゃんとクラシックに向かい合いますよー」アピール以外に意味あんの?という決して言ってはいけない本音をはじめそれまでうっすら広がっていた警戒心やら不安やらの諸々をなぎ倒すべく、ホラ来るきっと来るーと露骨なまでの往年メロデスチューンに仕立ててみせたM2“State of Slow Decay”が受け継ぐ。
その疾風怒濤のブルタリティ、アッー!ザゲイツィーなデスラッシュリフに混ざる美メロと、アンダース・フリーデンの野獣の咆哮。
アークエネミックな美麗ギター、そして構えかけるガッツポーズ、緩む肛門と顔を出す脱糞、用意しておきたい大人用おむつ。
しかも更に続くM3“Meet Your Maker”では勇ましげつつ、いまだ見ぬ憧れの女性器を目指していた童貞のぼくらがあの日に胸奥深くしまっていた中学生地図ピンボールマップを広げながらも、そこに加わる哀愁コーラスと重厚リフによってふと顕著に匂わせ始める「Soundtrack to Your Escape」あたりの懐かしきオサレ時代のY2Kサイバー感覚と脱糞臭はどうだ。(いやどうだって)
ちなみにこれらの楽曲でメロディックなギターが要所でうまく機能しているのは、ここに新加入したクリス・ブロデリック(元MEGADETH他)の働きあってこそのもの。
とまあ、ここまでの前半の尿漏れ注意な泣きメロ搭載慟哭イエテボリメソッドの使いまわしなメロデス回帰ムードに、オールドファンなら「あっ、これゼロ年代まででやったところだ!」と無邪気にはしゃぎかかるところなのだが、とはいえやはりここで注意したいのは、全体的に見ればあくまでそれらは現状の彼らによる過去の残骸の組み直しでしかないということ。(「Reroute to Remain」!)
その象徴こそが、アルバムの聞き所を果たすべく置かれた二部構成タイトルトラックM5“Foregone, Pt.1”~M6“Foregone, Pt.2”の流れだ。
本来は炸裂ブラストビートとデスリフからの泣きメロ大放出サービスな良メロデス・トラックなはずが、案外そこまでフックも強くないまま、あれこれ「Whoracle」の捨て曲だった?とちょっぴり怪訝しかかってるうちに、間もなくモダン化という名のグダグダ・歌モノオルタナに継がれて、いつの間にかダル終わり。
それは何だろ、まるでクローゼットに20年眠りこけてたホコリまみれのセルフヴィンテージを引っ張り出してきたはいいが、時代も変わったし年も食ったしな今の身にはそこまで合わなくって、何とかお直しリメイクもしてみたけどその微妙な馴染み具合に、これだっけ?と首かしげる感覚に近いというか。
そんな作りを制作側も自覚的なのか、後半にもハイおじいちゃんコロニーのお時間ですよと、かろうじての8M“The Great Deceiver”でまたもや高齢リアタイ・ハッスルストックホルム・タイムが訪れるのだが、しかし。
ここから先の終盤にいたっては、今のインフレを理解する必要があるので少し長くなるぞとサムライ8ばりの打ち切り確定展開。
いいおっさんがフーディキャップ&太縁メガネでマイク握る姿も痛ましげに、クリーンヴォイスをメインにした薄口地味色ヘヴィロック志向へとシフトされてしまわれ、そりゃ悪くはないけど全くよくもないという、せっかく緩まされた肛門たちも次々に閉まりゆく仕様を採用。
その手応えの抜け落ちるさまにハタと気付けば結局んところはシングル数曲だけが単にそういうものだったという驚愕の事実へと対峙されたまま、真顔に戻って漏れ散らかした糞尿をふき取っては、美しきぼくたちわたしたちが90年代に忘れてきたノスタルジーの残穢と、折角の冒頭で獲得した高評点らと一緒にトイレに流しながら「そういや何が聴きたかったんだっけ…?」とForegoneになり果てていくという、前作に続いての嘘偽りが全くないタイトルまんま残念体感、何なんこれ。
うーん、
最近の路線もそこまで嫌いじゃないし、ましてや過去の焼き直しにふけってろとまでも思いはしないのだけど、でもだからといってコレジャナイとしか思えないのは、果たしてぼくだけだろうか。
せめて、モダナイズド側にもメロデス懐古路線に押し負けずに一発逆転できるキラーチューンがあれば、少しは違ったかのもしれない。
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- アーティスト名:IN FLAMES
- 出身:スウェーデン
- 作品名:「Foregon」
- リリース:2023年
- ジャンル:メロディック・デスメタル、デスメタル、ヘヴィメタル、オルタナティヴ・メタル