RANCID/”Tomorrow Never Comes”:88p
RANCIDの新作が、ここ20年でいっちゃん素晴らしい件。
いやRANCIDはいつだっていいアルバムしか出してきてないだろとか(ちなみにちょっとほろ苦いエモーショナルな感傷のエッセンスが効いた「Indestructible」も、ぼくは大好きな彼らの一枚だ)、「そういうやつはいいから」とさておいたって、本作は「やっぱりここ20年のカコイチ、素晴らしい」。
おっと、のっけからこういう言い方をしてしまうと、皆さんに少しばかり誤解を生じさせてしまうかもしれない。
ぼくからすると、本作は、やれ何かいつもより格別に出来が良いだの、初期の傑作を凌ぐ傑作だの、実を言うとそういう意味じゃちょっと、ない。
ここでは、「やっぱり素晴らしい」の「やっぱり」というのが、ちょっとしたポイントだ。
何故ならその「やっぱり」のなかには「いかにも彼ららしい」という意味と同時に、それと同じくらいに「今の彼らだからこそ」との意が込められているからだ。
何せ、上のアー写からも伝わる通りな、今やすっかりいいおっさんになったドベテラン一級バンドたる彼ら。
いや、そんな彼らだからこそ作ることのできる、まるで理想のような年の食い方をしたおやじパンクスたちの、そんな今のRANCIDによる、理想のパンク・アルバム。
だから、いかにもRANCIDらしいのだが、そこに加齢の味わいがちゃんと加わっている。
それが、「やっぱり」素晴らしいのだ。
スタジオアルバムとしては、10枚目、
6年ぶりのニューフルレンスとなる本作。
しかも収録分数、わずか30分弱ときた。
いずれも3分足らずの、スカなし、Oiあり、勢いありなショートレンジ・バレット、計16発。
シンプルで直球狙いなそんな作風には、なんともイイ具合に、イイ感じにフレッシュなエネルギーが漲っている。
だけど、ここがポイントなのだが、だからといって無理に若作りしているわけじゃない。
細衰えた残り少ない髪をスプレーでヘナヘナに立たせたり、どうしたって凹みやしない出っ腹をちっちゃなライダースのジップを上げる。そんなマネをしているわけじゃない。
いい中年のおっさんらが集まって、昔よりは遥かに衰えた体力で、だけどそのぶん百戦錬磨の貫禄と手慣れまくりな懐の広さによって、せーの、で初動の勢いよくぶち込んでみせた。
そういう、爽快ながらも味わいもあるアルバムだ。
大体、ジャケからして素晴らしい。
あの例のバンドロゴの下に、どうみても、いいおっさんヅラが4人、並んでいる。
いずれもパンクスとしてメシを食い、パンクスとして年を食ってきたオヤジ達が並んでいる。
だからそれが、サマになる。
おじサマになる。
ティム・アームストロング (Vo/Gt)、
マット・フリーマン(Ba/Vo)、
ラーズ・フレデリクセン(Gt/Vo)、
あと少し若返って、ブランデン・スタインエッカート(Dr)。
そうだ。
このいいおっさん達だからこそ、今のRANCIDだ。
このおっさんらでこそ、RANCIDだ。
そんなまるであるべき中年パンクスの、その素晴らしさがここに詰まっている。
のっけから畳み掛ける、軽快なタイトルトラック。
M1“Tomorrow Never Comes”、「明日なんて来やしない」。
汗と唾がほとばしるような男臭いしゃがれ声で、この社会のシステムのファックさに相変わらずアゲインストしてみせる、いつもながらなティム・アームストロングの、あの勇ましい歌声。
そしていかにも彼ららしいメロディックさと性急さで勢いよく満杯のビアグラスをぶつけ合うかの、M3“Devil In Disguise”~M4“New American”へ。
一方でOPERATION IVYや80年代ハードコアっぽいM6“Don’t Make Me Do It”もあれば、90年代中期の往年を思わせるM8“Live Forever”やお馴染み節ともいえるM12“One Way Ticket”なども健在だ。
初期回帰、といえば当然そう思えなくもないのだが、だからといってかつての若かりし初期作品や周辺の若手ハードコアバンドのような、キリキリとした切れ味や噛みつくような初期衝動をまんまにぶつけていたりはしない。
そのかわりに、90年代からここ20年をも一線で生きてきた熟練のロックバンドならではな、歴戦の現場感覚とクリエイティビティの場数とで培われた円熟味と安定感が漲ってる。
つまりは現役30年のおやじパンクバンドによる、これぞおやじパンクというアルバム。
それが本作だ。
思い起こせば、2000年代以降、ずっとパンク山のボス猿を担ってきた彼ら。
しかし一方で現役バンドとしてはここしばらく、正確にはゼロ年代以降、歳を重ねての成熟性をメインに据えた多彩で多様な大人ロック・バンドとしての作品が続いていた。
勿論ながらそれはそれの魅力があったのも確かだが、しかし本作はそれらよりもっとストレートなハードコアらしさに溢れている。
しかし、でいてそれをやっているのはやはり、熟しきった大人パンクバンドの彼らである。今やおっさんの、オヤジパンクバンドたるRANCIDである。
だからこそ。それを磨き続けてきた彼らの、その今の姿が微笑ましく、そして誇らしくもある。
ああ、パンクとして歳を重ねておやじになるのも、なんか格好いいもんだなって、やっぱりそう思えてくる。
(大体ハゲヒゲオヤジになっても十分カッコいいまんまなティムとか何なんこれ反則だろ)
そうだ。
これこそがぼくらが90年代から見てきた、RANCIDだった。
この道30年以上の、現役おやじパンクのRANCIDが、それを今やっている。
だからこそ。
RANCIDのこの新作は「やっぱり」素晴らしいし、
RANCIDは「やっぱり」カッコイイのだ。
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- アーティスト名:RANCID
- 出身:US
- 作品名:「Tomorrow Never Comes」
- リリース:2023年
- ジャンル:PUNK ROCK、HARDCORE PUNK、SKA PUNK、POP PUNK、