TURNSTILE/「Glow On」:86p
この間Facebookで友人が昨年2021年のベストアルバムに本作を挙げていたのを目にして、あーそうだ、コイツ拾い損ねていたわ、いっけねー!☆となり、今頃になって慌ててピックしてみる。
そうそう、確かにこれ、2021年のアンテナでしっかり押さえておくべき一枚だったのだ。
ということで、レーベルの紹介いわく米メリーランド州ボルチモア出の新感覚ハードコア・バンド、TURNSTILE。
どうやら昨年末に出た本作は、彼らにとっての3rdフルレンスにあたるものらしい。
ってか、なんだよその「新感覚」って。
思わずそうツッコミたくなるとこなんだが、いやでも成程、確かに感覚というか、感性がピリつくレベルのもの。
マジでこいつらは今、押さえておいたほうがいい類のものだ。
ベースは、あくまでハードコア・パンク。
しかしそこに、ハイテンションで跳躍するヴォーカルを筆頭に、さながらRAGE AGAINST THE MACHINEとばかりの肉感富んだ汗っぽいミクスチャーを、パーカッシヴに織り込んでいる。
…と一般的には言われるのだろうけど、しかし。
ぼく的には、スラッシィなザクザクリフにオルタナが混ざった挙げ句、うねうねファンカブルかつ古っぽいクロスオーヴァーサウンドであっちゃこっちゃ弾む、というこの感じにSCATTERBRAINの1stを強く彷彿せざるを得ない。
尤も、彼ら自身にそんな意識は欠片もあるまいが。
それはさておき、しかもこいつらの場合、更にそこにシューゲイザー、ギターポップ、ニューウェイヴ、果てはラテンミュージックなどをも強引に取り込んでは、時に切なくメランコリックに。
しかし時に、妖艶に。
あるいは時に、繊細に。
そして時に甘口メルヘンにと、表情とカラバリをコロコロ変えつつ、剛柔絡み合わせであちらこちらへとビヨンビヨン跳ね巡っている。
何せ、いきなりの冒頭でピロピロとほがらかに鳴り響くシンセサウンドで、「えっ?」と、こちらの油断をついてリアクションをキョドらせてくるではないか。(“Mysrery”)
かと思えば、切れ味あるリフと爆速ビートで矢継ぎ早なハードコアを編み出しては、ふと”Underwater Boi”(↓)みたいな歪みが切ない柔和な情感ににじむインディー・ロック的ドリーミンさに漂わせたりも。
その出品の手際の抜かりなさも、見逃せない。
しかもそんな高音楽偏差値を仕組んでいながらも、外観はあくまで肉動主義。
極めてフィジカルな、熱情的バカロックに徹してみせているのも白眉だ。
結果、メタメタしき躍動感とパッションを弾けさすことでこちらの姿勢を崩させては、そこかしこに仕掛けられた人を食ったような展開に持ち込んで、そこで緩んだ足元をフックとメリハリに富んだ楽曲の良さでガッツリつかんでいく。
いやはや、実に作りが小賢しい。狡猾で、なんともはや憎らしい。
しかもクドクドと七面倒臭くなくていい。
コンパクトで、スパッと潔い。
手数を揃えて、出し惜しまずにテンポよく、ここにはこれだとばかりにカードを切る。
そしてだからこそ、ストレートに響く。手業が届く。
しかもここにおいては、その手段こそが一番有効なこと、効率が高いことを知っている。
だから無駄が、ない。
うーん。
にしても、なんとユニークでクレヴァーな連中だろう。
そしてその「ユニーク」というただ一言に、なんという情報量の濃密さと秀逸な感性を詰めこんでいる連中なのだろう。
先にSCATTERBRAINの例を出したが、要は、あれと同じだ。
すなわち、”あえて”の「バカ・ハードコア」。
つまりは、馬鹿馬鹿しいまでに弾力あるスラッシィな肉動感に隠れて、それを裏打ちしている音楽的素養と頭脳明晰さを変態オルタナティヴの仮面で視点をずらさせる。
そんな「実はかくれ天才によるバカハードコア」という共通性を、まさかの30年の時代を超えてここに見る思いがした。
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- アーティスト名:TURNSTILE
- 出身:US
- 作品名:「Glow On」
- リリース:2022年
- ジャンル:HARD CORE PUNK、HARD CORE、MIXTURE、ALTERNATIVE他