例えば眠れない夏の深夜にこんなポップスを~MAROON5/「Jordi」:75p

アルバムレビュー
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MAROON5/「Jordi」:75p

寝付けない。
どうしてなんだか、全くわからないのだが、とにかく寝付けない。

平日だし、明日も早いというのに、そこそこに酒も飲んだはずなのに、
何故なんだ。
今夜はどうにも酔いも進まず、そしてどうにも、寝付けない。
そういう夜が、ごくたまになんだが、時折ある。

あれえ、更年期障害ですかあ?
うるさい黙れ。
とにかくだな、おっさんになるとたまにあるんだよ、そういう夜が。
割と飲んでたくせに不思議と酔いもしないし、寝付きが悪い。
そんな、おかしな夜がな。

仕方ない。
しばらくもぞもぞとしていたベッドから思い切って出て、リビングに向かう。
まずは、水を一飲み。
そしてウィスキーを氷の入ったグラスに、ぐがーっと勢いよく注いで、さあこれが今夜の睡眠薬代りだ。

それが医学的にいいのか悪いのか、そういうやつは明日以降にしてくれ。
とにかくぼくは今はもう、寝たいんだ。
ホロっとコロッと酔って、とっとと気持ちよく、寝たいんだ。

窓の外を、ふと見る。

しとしと、しとしと。

このところから、ずうっと降り続く雨。
ああ、そうだ。この下書きを書いているのは、7月上旬。
まだ梅雨が終わりきれていなかった、やたらとグツついていたあの時期のことだ。
ギラつく夏を前に、どんよりとした日々が来る日も続いていた、あの頃の話だ。

仕方ない、今日ラスイチの音楽でも流すか。
こんな寝なくちゃいけない深夜に、さすがにメタルはゴメンだ。
全然、気分じゃ、ない。

出来るだけ軽やかで心地よいポップスが、いい。
出来るだけ過剰な情緒のないやつが、いい。
出来るだけ過剰な情報のないやつが、いい。

つまりはテンション程々に、大人のゆとりがそこにあって、耳障りがよくて聴き疲れのしない、だけど欲張りだけど、そこに寧ろ「ああいいなあ」と、そうじんわりと、ナチュラルに思えるやつがいい。

なーんて、そんな都合のいいものがあるのだろうか。
いや、それがあるんだ。
丁度よく仕入れ立てのものがここに一枚、取って置きが。

全米のオシャレ人気ロックバンド、MAROON 5
何を隠そう、その新作がズバリ、それだ。

さて。
とりあえずの基礎情報に触れておくならば、本作は彼等にとって通算7作目のスタジオフルレンスだ。

そして今回のアルバムの裏テーマは、タイトルの「Jordi」にあるという。
なんでもこの「ジョーディ」とはバンドの元マネージャーであり、同時にアダム・レヴィーンの幼馴染みの親友でもあり、しかし2017年にこの世を去ってしまったジョーダン・フェルドスタインのあだ名であるのだという。

ということはつまるところ、割と濃い目に、親しい友人への追悼を作風に取り込んでいる、ということか。

そんな話を聞くと条件反射で、それはご愁傷様でしたと下を向いてうつむく周囲を眺めながらそれに合わせるのが好きなぼくらジャパニーズだが、しかし。
本作を聴く限りでは、意外とそんな悲しめでメランコリックなムードは、ここにそう強くはない。

そこら辺の手綱加減の細かい事情についたはぼくは全く知らないが、でもこれだけは判る。
彼らはここに過剰な感傷を、置いてはいない。
代わりに、軽やかなポップスのタッチとともに、「またな。」を置いている。

「さようなら」でもなく、「またな。」。
そんな、程よい距離感のライトタッチを置いている。
そこが、何というか、さすがはモテ伊達男というか、そんないい塩梅なのだ。

なかでもそれが顕著に出るのが、その追悼曲たる#11”memories”(↓)だろう。
思い出。
そうタイトルされたここでは、カノンを引用しながら、ノスタルジックなムードを穏やかきつ暖かに描いてみせているのが印象的だ。
これが、深夜の一人飲みに、染みる。
その軽やかさこそが、程よい距離感こそが、その「またな。」程度ですますかの適度なノスタルジアこそが、逆にぐっと、染みるのだ。

その他、全体のトーンとしては、淡くなめらか。
さわやかな清涼感の漂う、売れっ子ならではのよく出来た作りだとしか言いようがない。
しかも、このところのポップシーンのトレンドなのかは知らないが、多くのラッパーをゲストに呼んで、多彩な色付けでアルバムをデコレイトしている。

例えば、ブラックベアーを迎えた#3”Echo”なんかは、こうやって深夜一人でグラス傾けて聞くに、なんとも心地よい柔らかなポップソングだ。
それと人懐こいメロが弾む#4”Lovesick”(↓)あたり、彼ららしくてぼくは好きだな、やっぱり。

…おっと。いい加減、酒が染み込んできた。
さあて。
明日も早いし、そろそろあともう一杯くらいにしておくか。

あともうほんの少しだけ梅雨は続きそうだけど、それが終わればいよいよ夏の到来、だ。
流石に夏に心はしゃぐような年じゃなくなりはしたが、このアルバムもそんな2021年の夏をあちこちで様々なカラーで模様付けることになるのだろう。

尤もそんなことはメタラーオヤジにはあんまり関係のないことたが、しかし。
それでも今夜くらいはこの滑らかで鮮やかなポップネスに、少しばかり酔うことにするとしよう。

 

★追記(2021年07月23日)
「今週のチェック」から引用。

結構あれこれ書いたので、ここで加えることはさほどにないな。
だって今やオルタナロックでもなんでも全くなくなったこんな人気者が、今更メタラーオヤジに語られるほどでもないでしょ。

なんだろ、テーマもあるのか、全体的にメロウでほんのりノスタルジックなカラーリング。

人気者だけあって、お金使って、人使って、頭と技術使って、リスクマネージメントしてんのもさすがっす。
つまり、ラッパー筆頭に沢山イケてるゲスト呼んで、音像もモダンな今風ポップス仕立てにして、とちゃんとオシャレ作りを丁寧に仕込んでオワコン対策きっちり進めているのが、抜け目がない。

…おっと、門外漢がこれ以上偉そうに言うと怒られそうなので、このへんでやめときますね…。

DATE
    • アーティスト名:MAROON5
    • 出身:US
    • 作品名:「Jordi」
    • リリース:2021年
    • ALTERNATIVE ROCK、POP RODCK、POPS、他
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