BABYMETAL/”The Other One”:85p
成る程、こう来たか。
BABYMETALの新たなる幕開けのアルバムは、良くも悪くもそう唸らせるかの作りとなっている。
ライブ作品などはあれど、スタジオ・フルレンスとしては5年ぶり。
その間に事実上の活動休止など、ある種の区切りをおいてのニューアルバムであるが、その総体を俯瞰して言うなら、「世界戦としての戦い方をこれまでよりも絞り込んできた」といったところだろうか。
と同時に、最早言うまでもないことだが、現在、いや過去すらも含めてここ日本でそんな「世界戦」が出来るものは、ことヘヴィメタル界隈においてはこのBABYMETALを置いて他にない。
そんな揺るがしようのない事実の大きさと、故に完全に頭一つ二つも抜きん出た、圧倒的孤高さ。
それらの上に、このような秀逸な作品を実際にまたもや築き重ねてみせてしまうのだから、やっぱりBABYMETALは改めて規格外の存在だ、と冒頭にて称賛を掲げておくとする。
さてそんな本作。まず一聴して気付かされることは、全体を通してこれまでよりもぐっとシリアスで、ドラマティックだということだ。
無論それは本作がコンセプトアルバムの作りとなっているということも少なからず関係しているのであろうが、しかし同時にそこには彼女らの新たな出陣をより劇的に演出したいという作り手側の狙いも多分に作用しているのだろう。
いずれにせよその結果、本作は和風ファンタジーな歴史ものとジャパニメーション的サイバーSFをあわせたかの壮大な世界観を主軸に据えながら、そのスケールにあわせてより本格的なシンフォニックメタルやプログレメタルなどの要素をも含んだハイブリッドなモダン・メタルコア/ポストハードコアの音楽性を大きく起用。
そこにこれまでの「ジャパニーズ・カワイイメタル」の次なるネクストレベルを見出そう、といった指向性を示すに至っている。
なかでもモダン北欧メロデスに、シンフォサウンドとアニソンを混ぜたようなサウンドでアルバムを先導するM2“Dvine Attack-神撃”。
さらにはdjentとポストハードコアがベビメタらしい明朗清涼ポップネスに雪崩れ込むM3“Mirror Mirror”の前半の流れなどは、まさにその向きを主張するかのようだ。
しかしその一方で、前作「Metal Galaxy」に顕著に見られたような派手やかにコロコロと移り変わるかのきらびやかなカラフルさは、本作には見られず。
寧ろそのトーンは統一的で、しかも重めでダークといった趣きとなっている。
しかもそれを示すかのように、これまでの朗らかさやある種のおどけたコミカルさ(それを彼女らが演じるからこそ生まれるチャーミングさ)も、本作においてはかなり控え気味だ。
唯一その毛色を帯びている(とギリ言えなくもない)M7“METALIZM”などもあれど、むしろその役割はEDM対応兼ジャパニーズメタルらしいオリエンタルなマジカルカラー要員といった様相。
そのかわりといってはなんだが、今回はニューカラーとして90年代J-POP的な哀感メロウ・テイストが加味されているのが特徴的か。(M4“MAYA”、あるいはM5“Time Wave”等)
さらにはこれらに伴って従来のアイドル性たる未成熟な「カワイらしさ」をこれまでとは比べ物にならないほどに抑えてきているのも、やはり意識的なのだろう。
例えば従来的な少女性、清廉可憐なイノセントさに加えて色気と艶やかさすら前作では見せるに至っていたSU-METALの歌唱からは、それらの表情が明確に後退。
代わって今や貫禄すら備えたジャンヌ・ダルクのごとき凛々しさが、本作では前面に強調されているのがなんとも象徴的だ。
つまりはドメスティックなアイドル(BABY)から脱して、世界戦におけるメタルのシンボルたる女王へ。
と同時に、前作「Metal Galaxy」での手札を多彩に揃え広げる戦いから、焦点を絞り込んで、そこに火力を注いでいく本作での戦略へ。
本作での制作陣の意図、いうなれば「BABYMETALという物語」におけるドラマツルギーの強化とトップアクターとしての正統性(レジティマシー)を求める意識は、このあたりに特に強く見え隠れしているのではないか。
と、概ね高評価を下してきた身だが、しかし。
冒頭で「良くも悪くも」と前置きをしたように、ここに苦言が全くないわけというではない。
では何が、その「悪くも」なのか。
まずは、今回とくに思わざるをえない、楽曲インパクトの弱さ。
例えば、随分長いイントロだなと首をかしげかけたM1“METAL KINGDOM”をはじめとする、「悪くはないが抜け切らない」といった空を切るようなスカされ感。
そしてそれらを含めて、どことなくいつも以上に香っている「置きに行った」感。
そうした点を踏まえると、やはり意欲的なまでにチャレンジャブルだった前「Metal Galaxy」に水を開けられているのではないかとは、正直に、思わざるをえない。
よって評点はそのぶんだけこれまでの90点台から幾分減らしてはいるものの、だからといって本作が格段に見劣る凡作かと言われれば、そんなことは全くないだろう。
作り込まれた世界観といい、相変わらず演奏陣の抜群なテクニカルさと緻密さながらも歌モノ・ポップメタルとしての見事な完成度といい、はたまたSU-METALの圧巻の存在感といい、唯一無比のものであることはなおも揺らいでいない。
思えばかのベビメタも今や活動、十年超え選手。
その間に、幼くすらあったあのメタル少女達は成長と成熟を著しく進め、そして巨大な存在となっては海外進出を果たし、ここにまで至ってみせている。
そんな彼女らによる、一皮むけたメタルアクターの女王へと脱皮しての、さらなる世界戦への飛躍の一枚。
なるほど、メタルキングダム(M1“METAL KINGDOM”)におけるBABYMETAL伝説(M10“THE LEGEND”)の、これはまだ続く一幕にすぎない、ということか。
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- アーティスト名:BABYMETAL
- 出身:日本
- 作品名:「The Other One」
- リリース:2023年
- ジャンル:HEAVY METAL、JAPANESE HEAVY METAL、J-POP、DANCE POP、アイドル、LOUD ROCK、METAL CORE、