THE WILDHEARTS/「21st Century Love Songs」:86p
唐突で皆様には大変に恐縮なのだが、THE WILDHEARTSの新作が、すこぶる良い。
………ん?
あれ、ちと伝わりきれていなかったかな?
んじゃ、ではもう一度改めて伝え直すとしよう。
えーと。
誠に驚くべきことかもしれないのだが、しかし諸君。
この間リリースされたばかりの、THE WILDHEARTSの新作が、なかなか良いのである。
そう、あのTHE WILDHEARTSの新作が、である。
90年代後期、つまりは今からもはや20年以上も前に最高潮を迎えたロックバンドの、でも悪いけれどもう往年の熱心なファン以外は「ふーん、まだやってるんだな」位にしか恐らくは興味を示されないであろう、そんな20年前の賞味期限切れバンドの新作が、しかしかなり良いのである。
しかもその良さが、「普通にいい」のだ。
というか、「普通にWILDHEARTSとして、優れている」のだ。
例えばこうした「レジェンドのその後」にありがちな、熟成すら終えて枯れしかそこにないようなソレが寧ろいいのだ的なやつだとか、じゃなければ、そんな加齢に逆らってロックしている元気さが買えるみたいな、そういうものですらも、ない。
普通に最高にワイハ、なのだ。
つまりは普通に、要はナチュラルなくらいにしっかりとWILDHEARTSをしていて、しかもそれがWILDHEARTSでしかなくて、その”それ”が普通に、良いのである。
この2021年という時代に届いたWILDHEARTSの新作が、しかし「ずば抜けて」でも「クソ酷い」でも全くなく、ただただひたすら「普通に良い」、と言っているのだ。
どうだろう、唐突なまでにぼくが言いたかったことが、うまく伝わっただろうか。
21世紀のラブソングス。
そのうがったタイトルセンスからしても、いかにもWILDHEARTSって感じだ。
ゼロ年代以降、やれ復活したり活動を停止したり、それで音沙汰がぱたりと聞こえなくなったり、はたまたいきなり来日してみたり…とそんなワイハが、たった2年ぶりにぽろんと出した2021年のニューアルバム。
そんな21世紀に届いたラブソング達は、しかしやっぱりキャッチーでハツラツとしていてカラフルで、だけどヒネリとヒネクレとヒズミとがたんまりと詰まっていて、ポップ至極なのにやっぱり一筋縄ではいかないという、まさにWILDHEARTSならではのアルバムとなっている。
勿論それが20年以上も前の、かの名作群を越えて素晴らしい、なんてそんな類かといえば、そりゃあちょっと違うだろう。
違うのだけど、でもここにはしっかりとワイハでしかない魅力があって、ワイハに求めている魅力があって、そしてワイハらしい感性と色彩と人間像とがしっかり漲っていて、しかもそれが普通にうまく機能している。今この時代に。
これはそういうアルバムだ。
何せ、けたましいオープナーM1″21st Century Love Songs“から彼らでしかなさを伝えるし、そこから開放感をつなげつつも切なげなメロをホロリとさりげなく差し込むM2”Remember These Days“の旨味はどうだ。
そう、楽曲タイトルさながら、これがあの日のワイハだ。
だって、そんなあの日のワイハを思わせてくれるようなM5″Sleepaway“みたいなアンセミックさを歓迎しない往年のファンなんていないじゃないか。
パンキッシュな勢いと、馬力のあるメタリックな躍動感。
そしてそれが目眩くほどに、歌いたくなるほどにポップなくせに、くいっといちいち引っかかるフックがある。フックを掛ける。
ラブリーなくせに、ラブリーなソングスのくせに、はらわたをぐうっとエグるフックがある。
さながら、このジャケットアートのように。
ああ、イギリスの香りだ。
ブリティッシュなポップさだ。
そうだ、それがあの日のWILDHEARTSだ。
そしてここには、2021年に出されたここには、なんとぼくらが望むそれがたっぷりと詰まっている。
こんな普通に最高のワイハを、今この時代に新作として会えるなんて、なんとぼくらはモノすげえ地味に、しかし恵まれていることか。
あの日のジンジャーを、あの日の彼らを今、この時代に味わえる。しかも嬉しいことに、「普通に」。
そんな21世紀の「普通」のミラクルが、このラブソングスなのだ。
だからこそ。
もう一度、いや今度はもう少しばかり声を大にして、改めて言い直すとしよう。
諸君。
誠に驚くべきことかもしれないのだが、しかし。
この間リリースされたばかりの、THE WILDHEARTSの新作が、なかなか普通に良いのである。
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