リアルな痛みを、覚えるとき~INDIGO DE SOUZA/「Any Shape You Take」:82p

アルバムレビュー
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INDIGO DE SOUZA/「Any Shape You Take」:82p

柔らかで繊細な歌声が、ふわりと広がる。

「リアルな痛みを、覚えるとき」
そんな詩情をソフトな歌声が伝えながら、メロウな情感が静かにゆっくりと、広がる。
やがてかき鳴らされるギターも、刻まれるビートも、その繊細さを、柔らかさを、決して壊すことなく、ただただ色彩を広げていく。
あまりに、緩やかな情景。

と、その広がりが、ゆっくり静かに進む中。
やがて繰り返される、「I’ve been Going、Going、Going…」というそのループの中から、なんと。
むくむくとそこに不穏極まりないノイズと叫びの劈きが沸き起こり、あぶく立ち、立ち込め、せめぎ合い、響き合い、畳み掛け、押し寄せ、覆い潰していくではないか。
しかもそれらは、そこにあったはずの柔和なメロウネスを幾重にも塗りたくり、飲み込み、塗りつぶし、磨りつぶし、切り裂いて、激情の渦で覆い尽くしていく。

よもや混沌と激情の一色しかそこには存在しない、と思ったその刹那。

さあー……っ、と色めいてそれらをまたもや染め直す、ロックの鮮やかな躍動。
またもや混沌を切り開いて動き出す、ロックのみずみずしい情動。

そんな、アルバムの中央に意図的に仕掛けられたエモーションのボム、
M5″Real Pain“が、これだ。

INDIGO DE SOUZA
自主リリースの1stに続いて作られた、これが事実上の本格的なデビューアルバムとなる、ノースカロライナ州出身の新進気鋭シンガー・ソングライターであるという。

実のところ、こないだPitchforkで8点超えの高評価をゲットした上に「BEST NEW MUSIC」にも選ばれていたこのアルバム。
へえ、とそこで少しばかり気にかかったのが、ぼくが彼女を知る最初のきっかけとなった。

Any Shape You Take」。
どんなカタチにもなろう。
規定のジャンルに当てはめられたくない気持ちの現れかもしれないが、随分と大きくアタシ自意識のカドが出ているな。
そう割と訝しながらも、試しに本作を聴いてみた。

ああ、思いの外に割とふわりふわりと、緩やかな浮遊感が気持ちがいいねえ。
それが、まずは最初に軽く流してみたファーストインプレだった。
M1から続く柔らかくデリケートなタッチに委ねてすっと入ったまま、するすると流れ続く音像に、ついそう許してしまった。

つまりは、「聞き流し」ていた。

呑気に、油断して、懐を出し切って。
その程度のユルッユルな気構えで向かい、もっと正直に言えば本作を、彼女をナメきってぼくは「聞き流して」いたのだった。
が、しかし。
そんな身を、いきなり「ぐい」と強引にとっ捕まえられ、アルバムに向かって座り直らされたのが、他ならぬ先の曲、”Real Pain“の存在であった。

慌てて背筋を正し直し、本作に、彼女というアーティストにもう一度向かい直してみると。
それまで、ああ、割とふわりふわりと気持ちがいいねえ。と、その程度で済ませていた音楽の正体が、実はそれどころか「死よりも闇いもの(”Darker Than Death“)」だったり、「死/泣(“Die/Cry“)」だったりという、随分とダークさを帯びたものだったことが見えてきた。
浮遊感どころか、なにやらやたらとえらい重いものを、さながら毒のような情感を、実はふわりふわりと意図的にくるんで軽やか、柔らかに歌っていたことにそこで気づくのだった。

そうか、そこか。そっち系か。
ただのよく出来たありきたりのソフトロックというわけではないということか。
先のPitchforkの好評点の中身が、少しばかり見えてくる。

尤もそこはついついエモみがち自己陶酔しがちポエみがちな若い女子シンガー特有のイタめ赤裸々情感の表出か、とは思わなくもないけれど、にしたってそこにある歌唱表現はちょっと尖りがすぎる。
それだけで片付けるには、痛みが、ReaL Painが、ちとばかり引っかかりすぎる。
なるほど本作は、さながらふと許したばかりに心に刺さって抜けないトゲのような異物として、その存在感を放っている。
そうか、これはそういう手のアルバムだったのか。

やれ、インディーロック。
やれ、オルタナティヴロック。
やれ、グランジポップ。
やれ、ガラージフォーク。
やれ、フォークトロニカ。
やれ、ハイファイポップ…。

彼女の音楽性を語るには、こうした形容が幾つか並ぶのかもしれない。
そしてその都度。
Any Shape You Take」。
いずれもどんなカタチにもなろう、とそんな両断の返答がきっと彼女の歌からは返ってくるのだろう。
彼女はそうやって歌い、そうやって振る舞い、どんなカタチにもとらわれずに歌うのだろう。

そして、もしそうだとしてもただ一つ、明確なこと。
それは、たとえどんなカタチとなろうとも、どんなカタチだと言われようとも、そこにはトゲのようなReaL Painが確かに仕込まれている、ということだ。

DATE
  • アーティスト名:INDIGO DE SOUZA
  • 出身:US
  • 作品名:「Any Shape You Take」
  • リリース:2021年
  • ジャンル:INDIE ROCK、ALTERNATIVE、他
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