ジャーマン・スラッシュは手堅い~KREATOR/「Hate Über Alles」:86p

KREATOR/「Hate Über Alles」 アルバムレビュー
KREATOR/「Hate Über Alles」
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KREATOR/「Hate Über Alles」:86p

KREATOR

KREATOR

ジャーマン・スラッシュは、手堅い。
DESTRUCTION然り、SODOM然り、そして彼らKREATOR然り、いずれもやはり、手堅い。

勿論、各バンドだって紆余曲折そりゃあ当然ながらあるわけで、それによってメンバーが変わったり、環境が変わったり、音楽性が変わったり、品質が変わったり、活動が滞ったり云々…と何処だって相応にあるわけなんだが、なんというかそれでもやはり、揺るがない。
活動30年、40年近くを経て、今やそろそろご隠居が見えてきたいい年になり、いい加減…と、これがそうそうならない。
やっぱり、揺るがない。
そして、作り出してくるものがやっぱり、手堅い。

これは、例えばSLAYERMETALLICAMEGADETHANTHRAXなどと比べたら一目瞭然だ。
彼ら本場アメリカの四天王達がずっと悶々と抱えては悩み、格闘し、こじらせ、だましごまかし、押し隠そうとしているが、モロバレで見せてしまっている、成熟問題。
言ってしまえば、「スラッシュ老い方問題」。

何故だろう。
何故ヨーロッパ勢、というかドイツ陣営はそういう「ロックバンドとしての成熟問題」にさほど囚われず、このようにわが道を進むことが出来るのだろう。

多分だが、それはアメリカ市場、アメリカ音楽界、アメリカシーン、つまりは「アメリカという社会」においてのメタルを巡る文化的な「自意識」「生き方」の問題というか、違いなのではないか。

長年ずっと見てきているが、消耗の激しいアメリカ(あるいはイギリス)的な「ロックバンドとしての自意識」に、結局は辺境なドイツ他地域はそこまでとらわれないですむ。
ここらへんに、それを解く糸口がどうもありそうな気がする。

…と今回はそんなロック実存論へとディープに足を踏み込むのはこのくらいにしておいて、それはさておき本題だ。
KREATORだ。
KREATORの新作の話だ。

で、これもまた、手堅い。揺るがない。
本作で何と既に、フルレンス15作目を重ねるにも関わらず、である。
この2022年に、揺るがないことの強さをここに示している。

さすがはぼくらのKREATOR
そう誇りたくなるところだが、しかしそんな彼らだってここに揺るぐに十分過ぎる要素だって、大きくあったはずなのだ。
なにせ、メンバーチェンジがあった。
結果、ベーシストのクリスチャン・ギースラーの脱退。そして後任に選ばれた、元DRAGON FORCEフレデリク・ルクレーク

かくした変動を挟みながら出てきた5年ぶりの新作が、しかし、手堅い。揺るがない。
しかも、ことさら素晴らしいときている。
ここ近年の充実した作品群と並んで然る、これぞKREATORという賛辞に足る出来栄え、音楽性、クオリティとなっている。

例えば、ドラマティックスな世界観から突貫アグレッションへと突き進む、獣気と熱気に溢れた怒涛の冒頭数曲。
かと思えば、90年代のゴシック時代を生き抜いた彼らならではの、重厚ながらも哀感に染まったメロディックさを押し出したような中盤以降。
しかもそれらを終始支える、ミレ・ペトロッツァの噛みつくような咆哮の存在感はどうだ。

さらに曲によってはJUDAS PRIEST、やもすれば同国ジャーマンメタルに通じるものすらある。
のみならず、ワンカラー加えて女性シンガーをゲストに迎えた醜美的コントラストが活かされた“Midnight Sun”も、実に白眉だ。

このように本作は、この時代にガチモンのスラッシュメタル、ガチモンのヘヴィ・メタルでガシリと構えられ、そこに全く、揺らがない。
おそらくはこれを気負いなく出来るのが、辺境バンドの強さだ。
ジャーマンスラッシュの強さだ。
KREATORの強さだ。

しかるに、このアルバムの秀逸さは、「揺るがなくていい」「これでいい」という上に作られている。
だからこそ出来る。迷いなく、選べる、作れる、築ける、振り切れる、突っ走れる。それがゆえの、手堅さだ。
ジャーマン・スラッシュは、そこが手堅いのだ。

KREATOR/「Hate Über Alles」

KREATOR/「Hate Über Alles」

DATE
    • アーティスト名:KREATOR
    • 出身:ドイツ
    • 作品名:「Hate Über Alles」
    • リリース:2022年
    • ジャンル:THRASH METAL、
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