20年後に死ぬパリピ~ANDREW.W.K./「God Is Partying」:67p

アルバムレビュー
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ANDREW.W.K./「God Is Partying」:67p

2000年代初頭メタルの最激痛キャラが放った、出オチ一発芸。
その後の結果論とかではなくて、もうそれこそ出てきた瞬間からそういう警戒心をマックスレベルで刺激させてくれたのが、この鼻血男だった。

少なくともぼくにとってANDREW.W.K.とは、登場の時点からそういうむき出しなまでの地雷感しかしない存在だった。
せめて草や土くらい、かぶせろよ。
そんなツッコミすら入れたくなるくらいに、あの鼻血男は露骨なまでの地雷メタルだった。

てか、そもそも何なんパーティロック・キャラ、って。
白Tで鼻血出して、パーティとか叫んでマジで何なん?
こんなもん、誰がまともに推してんだ?
こんなダサ痛いものを「いい」とか思ったら、その感性はおしまいだろ。
あの当時、ぼくは正直そのくらいにすら思っていたのだが、しかしそれもあながち間違っていなかったと、今でもすら思っている。

いや、実際にそう思っていたのは、ぼくだけじゃないはずだ。
だって当時のメディアでの笑顔がこわばったような寒々しいハイプを眺めながら、一体どれだけのロックファンがガチにそれにだまされてベタにイノセントに支持したんだろう。
彼のあの頃の、ぱりはーぱりはーのうすら寒さを、とくに「こっちのメタル畑」で冷めて眺めていたクチも少なくなかったとぼくは記憶しているのだが、それは間違いだったろうか。

そして、案の定。
やはりというか当然の帰結というか、そんな一人テンションを無理に高めてスベってる根の真面目な芸人みたいにしか見えなかった自称「パーティ野郎」カッコワライは、やっぱり次のアルバムでシリアスネスと距離を取り始め、あっという間に失速し、やがて消えていくのだった。
今は昔、20年も前のメタル与太話だ。

と、そんなゼロ年代初頭のメタル黒歴史、ズルすべりの藻屑直行場末芸人が、なんとこの時代に新作を出してきた。
それも今度は、自身のキャラ変ドラマを前面に押し出したような自虐系アルバムを持ってして、だ。

「神はパーティ中」。
知らんがな、というアルバムタイトルはしかし、さながら落下して地に落ちたパーティ神たらん鼻血男のジャケアートに掲げられている。
まるでパーティにとりつかれたいかれた男の妄想の末路、をあざとく狙うかのように。
まるでパーティキャラの末路が、ここにあるかのように。
まるで20年後に墜落死して死ぬパリピ芸人の姿が、これであるかのように。

そして、その内容たるや。
M1″Everybody Sins“。
「みんなが悪い」(注:極訳)、そう幕開ける本作は、そんな過去のなんちゃってパリハーキャラをここで一切合切終わらせるかのように、その主張を前面化しているのが特徴だ。

ずっしりと重くて、シリアス。
しかし荘厳で、ドラマティック。
確かに過剰にハイパーなテンション、無駄な情念の昂りはいかにもANDREW.W.K.らしくはあるのだけど、でも以前とはベクトルが完全に違っている。
いつになくかしこまっていて、その明朗さはいつになく陰りを帯びている。

しかもそれらが、意外にもというか、そんな悪くない。
いや、寧ろ案外とアリだったりする。

何せ、そこはやはりなんだかんだで地力あるミュージシャンだ。
マルチミュージシャンやプロデューサーといった裏方職人としての才能もさることながら、とくにグッド・メロディメイカーとしての資質は大したもの。
ここでも方向性は違えど良質の楽曲を並べており、四の五の難癖をつけようがやはり全米レベルでその名を高められるだけの存在だと、そこに関しては認めざるを得ない力量を発揮してはいる。

個人的には、こうしたシアトリカルなメタルをやろうすればするほどに「おシンフォ病」になりがちな欧州の連中と違うアメリカ人らしいバランス感覚を評価したいところ。
例えば、M3″No One To Know“。
冒頭からの薄暗いダークさから覚醒的に情念を高め明度高めて昇華していくかのこのエモーションは、あの鼻血イメージさえ置けば、これはこれでとすら思えるくらいだ。
うん、いや本作は、こと音楽的にだけ純粋に見るのであれば、そこそこアリなんじゃなかろうか。ふとそのように思えてくる。

とはいえ、そう思いはすれども結局はなんだかんであのANDREW.W.K.の今がこれ、である。
とどのつまり、やってることはその20年後に行う鼻血男のキャラ変通過儀礼、キャラ回収編である。
20年後に死ぬパリピ、である。
これをはて、どう評価するのか。
他の方々のご意見はさておいて、ぼくはやっぱり些か訝しんでいる。
音楽的にはそんなに悪くないかなとは思いつつ、その作品や存在としてはやっぱり20年前の警戒心や懐疑心を沸き起こさずにはいられない。

だってさー、賞味期限もはるか昔に過ぎ去った20年後に、今さらこれ見せられんの?
大体、2O年も経って今頃におっさんにM11″Not Anymore“とか言われても、「知ってた」以外の感想が出てこねーんですけど。

全く、20年経っても、鼻血は鼻血だ。

DATE
  • アーティスト名:ANDREW.W.K.
  • 出身:US
  • 作品名:「God Is Partying」
  • リリース:2021年
  • ジャンル:HARD ROCK、HEAVY METAL、ALTERNATIVE他
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