ナンチャッテ~THE KILLERS/「Pressure Machine」:80p

アルバムレビュー
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THE KILLERS/「Pressure Machine」:80p

ふと気がついたら、いつの間にやら随分とヘヴィロテしている。
正直、そんな格別にお気に入りの存在でも何でもなかったのに、いやぶっちゃけ今だってさほどバンド熱自体が高まっているわけでもない。
なのに、でもこのアルバムだけは、ふと思えばなんだかやたら聴き直してる。
ロック好きをやっていると、たまーにそういうアルバムに出会うものだ。

あれさー、何でなんなんだろうね、マジで。

理由だとか、意味だとか、そんなとってつけたかのもっともらしげなソレならば幾らでも並べられるかもしれない。
でも本音のところ、明確なそういうものが、余り見当たらない。
にも関わらず、ふと気がついたら、いつの間にやら随分とヘヴィロテしている。

強いて言うなら、たまたまの、廻り合わせ。
タイミング。
ふとした、出会い。
何らかの、気の調和。
つまりが、偶発。

そんなくらいにしか言いようがないのに、つまりは理由なんかそこには微塵もないのに、バカみたいに繰り返して聴いてしまう音楽というのが、ぼくらには確かに存在している。

そうしてぼくらは、偶発的がもたらし出会った、偶発のたまものたる、偶発のロックを、音楽を、目まぐるしく偶発を繰り返す人生の中でそれに触れて、思いを残すのである。
あたかも、それこそがロックの楽しさであるかのように。

「キラーズって、こんなバンドだったっけ?」
当初、そんな違和感とそこそこに強い警戒心を抱いて、ぼくはこのアルバムに向かっていた。

ゼロ年代初頭の、あのガラージロックムーブメントに続いて在庫処理されたニューウェイヴ/ポスト・パンク大バーゲン祭りの中から出てきては、成り上がったいつの間にかオシャレUKが認める「アメリカものでもこれはアリ」バンド。
かたや米本国では、出せばチャートに踊る、アリーナ系人気者の大物シンセ・ポップロックバンド。
そんな認識程度だから、アルバムが出る都度にぼくも時折ちょろっと齧っては、ふーん、あっそ。以上。
精々それくらいがぼくの中での、このバンドの理解度であり、ぼくとの位置関係だ。

そんな彼らが、ついこないだ終わったばかりの夏の最後らへんに、ニューアルバムを出したという。
それも昨年2020年の夏には「Imploding The Mirage」を出したばかりだというのにだ。
まだほんの1年足らず、にだ。
…ってすまん、そんなことぼくとしちゃ全くどうでも知ったことじゃないのだが(そもそもスルーしてそれを聴いていないし)、とにかく相当な短スパンでドロップしたのが、このアルバムであるという。

どうやらその製作背景には、くだんのパンデミックやら出られなかったツアーやらが関わっているご様子なんだが、そういう諸事情は他であたってくれ。正直、よくわからない。

で、そのアルバムの感想を先週の雑記にちょっとだけ触れたから、以下に引用しておこう。
いや、ほんと聴いたときには、こんな感じだったのだ。

あれ、キラーズってこんなバンドだったっけ?
…というくらいに、死ぬほどクソ地味で内省誰得信者向けありがたいお壺アルバム。
(略)
大体、ファン以外に「これ聴くならKILLERSじゃないといけないんですぅぅーっ!」と訴えるような、ここでしかいけない価値とか意味とか説得力って、何かあんの?
だってこんなん、普通にBRUCE SPRINGSTEENでも聴きゃいーじゃん。
ましてや、やれバンドメンバーの生まれた片田舎の小さい町がどうとかマジ知らねーし。
ファン以外、おっさんの故郷話なんて微塵の興味もねーし。
それでも趣味でやりたいっつーんなら、今どき商品化すること別になくね?ファンサイトでDLでもさせてろや。
以上。んじゃ、次。

おいおい、こりゃあひでーな。
随分な扱いにも程があんだろ。
いやはや、我ながらそうとしか言いようがないんだけど、でも、確かに最初はそう思ったのだ。
だって、こんなもの、BRUCE SPRINGSTEENかぶれのナンチャッテじゃねーかよ。
うん、ホントのこと言うと、その印象は今もそんなに変わってない。

つまりこれは、THE KILLERSという「BRUCE SPRINGSTEENかぶれのナンチャッテ」だ。
ぼくの中で、その事実は揺るがない。

で、それを認めたところで、その上で問いたい。
んじゃ「BRUCE SPRINGSTEENかぶれのナンチャッテ」だったら悪いのか、と。
果たしてそれが作品を否定するネガティヴな理由に、マイナス要因となるのだろうか、と。

もう、正直に明かしてしまおう。
ぼくはなんだかんだで、このアルバムが、好きなのだ。
ポストパンクヅラのシンセでぺこぱこチャンチャカとやってるこれまでのそれよりも、少なくとも全然好きだ。
そう興味のないバンドのおっさんが生まれたド田舎の故郷についちゃ、何の興味も全く生じないが、でも見たことのない海の向こうの壮大な大陸を思わせる、土臭い香りを運ぶ、こういうアメリカンロック自体は、ぼくは好きなのだ。

最初に構えた警戒心を緩めさせ、するっと入り込む大陸を吹きすさぶ風。
乾いた荒漠たる大地と、寂寥とした風情。
そこに浸る気持ちよさが、ぼくは好きだ。

その「好き」を、かぶれのナンチャッテだからという理由で抗い、マイナス要因に名指す必要って、そもそも、あるんだっけか。
ロックって、音楽って、そういうもんだっけか。

否、違うだろ。
「好き」が何より勝るのが、勝るから、ロックなんだろ?
大体ぼくがここにうだうだと長ったらしく書き続けていることだって、その「好き」をどうにかこうにか、なりもしない形にしようとしたいからじゃないか。

そう思いきることが出来ると、嗚呼、そうか。
ぼくなりに、色々と、見えてきた。
冒頭の1行目の謎が、見えてきた。
ふと気がついたら、いつの間にやら随分とヘヴィロテしている。
それは一体なぜなのか。
理由がない?
違う、理由は、確かにそこにあったんだ。
そう。
「好き」だからだ。

…なんてことを書いている間にも、この「BRUCE SPRINGSTEENかぶれのナンチャッテ」はぼくのSpotifyから流れ続けて。
再生回数からすれば、すっかりボスのこないだの新作をはるかに越えてしまっている。
そんな格別にお気に入りでもまったくないバンドによる、気まぐれのナンチャッテアルバムが、どういうわけか本家以上にヘヴィロテされてしまっている。

嗚呼、そうか。いや、そうだったわ。
おっさんになっていつのまにか頭でっかちに構えていたのか、何十年もしてきた経験を、忘れてしまっていたことを、思い出した。

そういえばロックというのは、「ナンチャッテ」だろうがなんだろうが、「好き」ならそれでもうそれは「ナンチャッテ」じゃなくなるものなのだったっけ。

DATE
  • アーティスト名:THE KILLERS
  • 出身:US
  • 作品名:「Pressure Machine」
  • リリース:2021年
  • ジャンル:NEW WAVE/POST PUNK、ALTERNATIVE ROCK、INDIE ROCK、POP ROCK
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