BUCKCHERRY/Hellbound:80p
雨模様が続きがちな6月の梅雨時期ではあるが、そんな合間にも時々晴れる日というのが、ぽつんとあったりする。
所謂、五月晴というやつだ。
そんな晴れ日が、たまの休日の午後に当たってくれた。こんな最高なことはない。
何がって、この時期の晴れた夕暮れほど、長くて気持ちのいいときはないからだ。
今時期だと、日没は夜7時近くにもなる。
だから、それまでたっぷりと沈みゆく夕陽を眺めながら、ベランダでビールでもやっていよう。
この時期ならではの、マンション最高層に位置した黒崎家の楽しみだ。
当然、音楽だって外せない。
夏の、夕涼み。
こんなシチュだから流したいものはコロコロと日々変わるものだけど、でも今日みたいな開放的な気分のときにはやっぱりこんなものが、気持ちいい。
そう、BUCKCHERRYの新作だ。
「気持ちが、良い」。
よくよく思い起こしてみれば、彼等のアルバムをこんなふうに感じるなんてことは、多分今までなかったことじゃないだろうか。
いやね、でもマジで、これいいんだよ。思っていたよりも全然。
何がって、変な気張りが解けている。そう、少なくとも前作「Warpaint」とは違ってる。
しかし、だからと言って、鋭気がないわけじゃない。
相変わらずノリもいいし、テンポも軽快だし、これがBUCKCHERRYだという魅力にあふれている。
だけど、何だろ。肩も張っておらず自然体だし、だからこその無理さがなく、故に爽快だ。
そう、程よくいい具合に、気持ちがいいくらいによく出来たロックンロール。
これが今回のBUCKCHERRYのアルバムだ。
おっと、誤解されては困るので、一応フォローしておこう。
前作「Warpaint」の挑戦をぼくは認めているし、何よりも頑張りの現れた力作だと思っている。
遡れば2015年の前々作「Rock ‘n’ Roll」の後、BUCKCHERRYは盟友、キース・ネルソン(Gt)を失い、ついでにドラマー、イグザビエル・ムリエルまで脱退。
事実上、バンドに残ったオリメンは最早ジョシュ・トッド(Vo)のみとなってしまった。
これは事実上の復活作「Black Butterfly」で好セールスをあげる奇跡の復活を果たして以来の、バンド最大の危機であっただろう。
あわやという状況の中、唯一残されたジョシュ・トッドは陣営を揃えて、バンドを再建。
再建といっても、実態はほとんどソロプロジェクトに近いようなもの。さながら「俺がBUCKCHERYだ」というかの状況である。
そんな陣営で作られたアルバム「Warpaint」は、彼等にしてはチャレンジングな、例えばNINE INCH NAILSの曲をよりヘヴィにしたカヴァーが象徴するかの、些か異色さの目立つ作風となった。
勿論、本質的には彼等らしいアルバムだったし、実際にはややながらピリ辛の新風を加えた、それだけに過ぎない作りであっただろう。
とはいえ、正直なところ、これまでに対して少々、軸はブレていた。
いや、致し方ないことではあるのだがしかし事実として、そのバンドの根幹を担う要員を失ったがゆえに、BUCKCHERRYとしての純度を薄めてしまった。
アルバムの出来やその効用の是非は別の話として、それはそれとして紛れなく認めるべき真実であっただろう。
となれば、次にやるべきはそれじゃない。
物事は常にケースバイケース、足場が、事情と状況が、パラメーター自体が、前作の時点とは別なのだ。
つまり次のこの一手においては、当然ながら振り戻しと着地点の見極めの精度がそれなりに求められることになる。
さあ、ここで調整役に呼ばれたのが、嘗て彼等の起死回生を担ったプロデューサー、マーティ・フレデリクセンかの人。
彼こそがこのアルバム最大のキーマンであり、また戦術家にしてその腕の振るい主に他ならない。
即ち、如何にして、前作でのそのバンドとしてのブレを補修させ、程よいところに軟着陸させるか。かつて結果をもたらした盟友でしか、出来ない所業だ。
かくして完成した本作が伝える今の彼等の姿は、極真っ当な、This Is ロックンロール。
過剰に荒げるでもなく、無駄にイキってハードに構えるでもなく、息するがごとくに、ロックする。
そんなアメリカン・ロックンロールのザ・スタンダード、そのものである。
だからそれは、例えば時にAEROSMITHぽかったり、はたまたAC/DCっぽかったり、或いはBLACK CROWSかなって時もあり、あれこれレッチリ?なんて思ったり、はたまたLED ZEPPELINやROLLING STONEらしい顔を見せたりも…。
でも、それがいい。
今や、それが彼等の様になっているのだ。
借り物じゃない、そうやっていてもああBUCKCHERYYだね、と自身のものになっているのだ。
それ即ち、ロックンロール・スタンダード。
ロックンロールの完成形でしかないもの。
そういうルーツィながらも、しかし現代ロックンロールのドンズバなそれそのものとして、程よくまとまっている。
それが今回のこのアルバムの「気持ちよさ」に繋がっている。
思えば。
嘗て20年前は「I LOVE コカイン」なんて歌っていた荒くれロケンローバンドが、20年も経った今に、大人のロッカーとして成熟と完成、成長と余裕を武器にして、そのまんまの姿を晒しながら等身大に完成、成熟されたロックを、歌っている。
無理することもなく、地に足つけてよく出来上がった、20年かけて作り込んできたロックンロールスタンダードを、やっている。
そりゃあ、夕刻のビールが美味いわけである。
★追記(2021年07月10日)
「今週のチェック」から引用。
なんかね、普通にいんだよね、今回は。
普通に気持ちいいロックンロール。
前回みたいな、ガリゴリに押せ押せも勿論好きなんだけど、今回はもっと「普通にいい」。
そういうところを、しっかり狙いすましてうまいこと狙い穿ってきてる。ちなみに今回、ギタリストとして加わったのは元JETBOYの、そのオリメンであるビリー・ロウだという話。
って懐かしいなJETBOYって!
ガンズ以降のバッドボーイズR&R時代の一山幾らの、その一つ。
何故か意味不明でハノイのサム・ヤッファがいたんだ。でも出したアルバムはどれも微妙だったっけなあ…。ちなみに、今軽くぐぐったら、再結成しててアルバム出しているの知りました。
…まあ別に聴きたくもないんですけど。
- アーティスト名:BUCKCHERRY
- 出身:US
- 作品名:「Hellbound」
- リリース:2021年
- ROCK’N’ROLL、HARD ROCK、BAD BOYS ROCK’N’ROLL、他