夏を駆けろ~LEBROCK/「Fuse」:80p

アルバムレビュー
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LEBROCK/「Fuse」:80p

また夏が、来たのだな。
今年初めてそれを実感したのは、7月上旬の昼前、高速道路を走る車の中のことだった。

7月に入ったとはいえ、まだ続く梅雨の日々。
どんよりとした日が来る日も来る日も続くなか、たまにふと晴れてくれた週末のこの日。
ぼくはちょっとした用事のため、北関東の某市に向かうべく、ガラすきの高速道路を一人飛ばしていた。

それにしても、よく晴れたものだ。
大体、この時期の晴れ日ほど、貴重なものもない。
飛ばす車の運転席の目に入っては抜けていく風景も、夏の風情そのものだ。

モクモクと勇ましく立ち上る、入道雲。
どこまでも透き通るような青空。
そしてギラつき刺すような、太陽の光。
のどかな田舎の、田植えを終えた田んぼと、あとは山の木々の緑しかない光景。
つまりは空の青と、雲の白と、大地の緑の、この三色しかない世界。
それが、夏の到来を、克明に物語っている。

爽快この上ない。
なんて気持ちがいいんだろう。
初夏のこの清々しい気持ちよさは、なんとも形容し難いものがある。

ドライブ、かあ。
思えば新型コロナウィルスの騒動以降、そう行ってないなあ。
例えばこうやって晴れた休みにハイウェイの風を切って、さして計画も建てずに、見知らぬここではない何処か、遠くにまで向かってみる。
こんなこと、そういやすっかり忘れていたっけ。

音楽、だ。
こんなときは何を聴こうか。
こんなときは思いっきり、明朗なやつがいい。
こんなときはめいいっぱい、ポップなやつがいい。
こんなときはとびっきり、軽快なやつがいい。
こんな空みたいに、スコンと抜けたやつがいい。
或いはちょっとノスタルジックなやつも、いいかもしれない。

とにかくダークだったり、やかましかったり、重かったり、メランコリックだったりっていうのは、今の気分じゃ、全然ない。
この気分と同じくまばゆいばかりに滅法明るくて、この状況と同じくドライヴィンで、今この初夏と同じく爽快なやつが欲しい。
だったらこのアルバムはどうだろう。

LEBROCK
それまでぼくはその名を全く聞いたことがなかったが、メタルオタク仲間のSNSで絶賛していたのをふと見て、興味を持ったのが少し前のこと。
この度ニューアルバムをリリースするということで、初めてその音楽に向かうこととなった。

とはいえ、困ったことにネット上にすら彼等の情報がほとんどない。
そんなわけでその正体もあまりわかっていないのだが、イギリスの2人組らしいということだけは理解した。
そして、どうやらこれは彼らにとっての2作目となるスタジオフルレンスだとのことらしい。

すまん、ぼくが現状で知り得たものは、これらのことだけしかない。
これ以上の情報があったら、逆に教えていただきたいくらいだ。

さて、その音楽性は、80年代テイストのエレクトロニック・ロック、といえばいいのだろうか。
まあ、そこら辺はおっさんにはよくわからないが、とりあえずこのメタル村の言語に訳せば、とどのつまりが「メロハー」だ。

ただし全編、キラっキラ。
まるできらめくようなシンセサイズドサウンドが、極めて明度の高いメロディで埋め尽くされたポップロックをこれでもかと飾りつけている。
しかもそれが、古臭い。
いや、古臭いというよりも、意図的に80年代ポップスのニュアンスを狙い撃ちしている。
何せ曲によっては、昭和末期の青春映画あたりに使われていても全く違和感がないくらいだ。
と、そんなまでに80sMTVを思わせるレトロさを示しつつも、明朗溌剌としたブリリアントなポップソングスが、ここにはひしめいている。 

しかも、それでいてロックらしい躍動感があるのもいい。
そこがただの80年代焼き直しリバイバルとは違うところで、メロディの運び方にモダンさがある。

勿論、イキったハードエッジやファストネスなんてものは仕掛けてもこないのだが、それは何だろうか。軽やかで小気味よく、ただただ真っ直ぐにどこまでも、屈託なく、衒いもなく、ポジティヴに伸びていく。
そんな意味での、ロッキンな軽妙さだ。

そのことは、例えばノスタルジックなほどに甘いメロを漂わす#2””Heartstings”から、開放的なヴァイブスに溢れた#3”Intersteller”への流れ。それを聴けば即座に理解出来るだろう。
ちなみにオープナーの#1”All Or Nothing”から続くこれらの前半の流れは、本作イチのエモーションの高まりどころだ。
そこでは、ツボを押さえたギターとスティーヴ・ペリーのようなふくよかな歌がよく映えている。

極上の、清涼感。
爽やかなそれが、アルバムを貫いている。
どこまでもクリアで、どこまでも伸びやか。
それが聴き手の気持ちを持って行ってくれる。
夏のドライブソングには、こんな打ってつけのものはない。
だからついつい、飛ばしてしまう。
夏を、突っ走ってしまいそうになる。

それにしても、だ。
こんなごキゲンメロハーを響かせて高速道路を飛ばしていると、あまりの気持ちよさにどこまでも行きたくなってしまう。
何だったら、早いところ用事を片付けて、そのまま海まで行ってしまおうかしら。
だって、これを鳴らしながら渚の街道でも走ったら、さぞ気持ちよいことだろう。

そんな思いにさせてくれるこれは、どこかこの夏の遠い先にまでこの身を連れていってくれるかのような、なんとも気持ちのいい一枚だ。

 

★追記(2021年07月23日)
「今週のチェック」から引用。

英国のよう知らん、シンセとシンガーのデュオユニットによるエレクトロポップ…まあ、メタル村言語にGoogle翻訳すれば「メロハー」だ。

でもこれ、ホントに気持ちが、いい。
特にトップ3曲が優れている。

中でも爽やかなノスタルジアを運んでくれる#2″Heartstings“からきらびやかな鍵盤で開放感を受け継ぎつつ、ほんのり哀愁を小匙半杯位まぶす#3“Interstellar“(↓)は、アルバムイチのキラーチューン…とまでいかないまでもギリ数歩くらいには位置するものじゃないだろうか。

でここがアルバム最大の頂点じゃあるんだけど、その後だって悪くない。
例えば、哀愁メロハーで色味を加える#6″Hangin’ On“に、当時のMTVから流れ出しそうなイントロでキラキラポップを軽やかに弾ませる#8”Synthetic“等々…。

と、とにかくアルバム全体を通してシンセサイズドな透明感あるトーンでまとめながら、80年代レトロシンセAOR/産業ポップの味付けが施されている。

この夏のドライブアルバムは、これで決まりでしょ。

DATE
    • アーティスト名:LEBROCK
    • 出身:UK
    • 作品名:「FUSE」
    • リリース:2021年
    • ELECTRONIC ROCK、SYNTH ROCK、POWER POP、MELODIUS HARD ROCK他
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