TOUCH/「Tomorrow Never Comes」:72p
今日から7月なのだが、そんな月初めの平日に急遽休みをもらってしまった。
にも関わらず、外は梅雨の雨降り。どこか行くのも億劫だ。
というわけで、せっかくの休みな上に扱うモノもモノなので、たまにはゆっくりと何も考えず、筆任せ(というかキーボードか)レビューをユルユルと進めていくことにしよう。
コロナ禍以降、このところすっかり頻度は下がってしまったが、しかしである。
音楽好きの大人にとって中古レコードを漁るという行為ほど楽しいものは、そう他にないのではないか。
勿論、新品を購入することだって、そりゃ胸ワクすることに違いない。
それはぼくら音楽好きならよく知っている話だ。
でも、この「中古レコード漁り」というのは、それとは全く違った宝探しであり、ハンティングであり、そういう別種の魅力の娯楽である。
例えば、偶然立ち寄ったレコード屋で往年の名盤を、しかも格安で掘り出したときの得も言えない楽しさときたら、音楽好き冥利に尽きるというもの。
何せCDもなかった時代の70~80年代のレコードというのは、大量に生産されているだけあって、比較的90年代以降のものよりも安く売られていることが多い。
モノにもよるが、1,000円以内とかで買えるものだって少なくない。(最近値上がりしているが、一昔前なら捨て値で買えたものだ)
一般的な大人だったら、ビールとそれらを3枚くらい買ってうちに帰れば、居酒屋にでも行った気分と懐で幸せな晩酌が出来ることだろう。
いや、もしかしたらこのコロナ期には最適の飲み方かもしれない。
それに例えば、持ってなかった古い名盤のアーカイブもさることながら、CDで持っていた思い出のアルバムのレコードを改めて書い直す、なんてのも大人だけが許される特権的至福だったりする。
何ならそんな思い出アルバムのCDとの出音を比べっ子する、なんてのだって大いにアリだ。
実際、ここでの日曜企画「ヴァイナルカフェ」で出てくるレコード達も、そのほとんどがそうやってサルベージされてきたものばかりである。
さて。
そんな魅惑の中古レコード漁りであるが、先日、こんなものをゲットしてきた。
しかもお値段、たったの380円だ。
ワンコインのお釣りで、下手するとジュースが飲めてしまう。
これはTOUCHというバンドが、1980年に残した(公式には)唯一のアルバムだ。
これについてはまた別途「ヴァイナルカフェ」で扱っているので詳しくはそちらを読んでいただきたい。
このTOUCHというバンドは、そもそも70年代に活動していたAMERICAN TEARSがその前身となっている。
いかにも70年代米国らしい、ややながらプログレがかったメロディアスなハードロック。それ即ち、産業ロック。
そんな音楽性を身上としていたそのAMERICAN TEARSの中心人物、マーク・マンゴールド(Key)が、ほぼほぼその面子を再集結させて結成したのが、このTOUCHであった。
ここでの彼等の音楽性は、その前身である産業ロックを受け継いだかのようなもの。
例えば、STIXやJOURNEYあたりに通じる、といったらおわかりだろうか。
それに加えて、QUEENのような厚いコーラスや時折様式美ばりの虹展開があるのが、このTOUCHの特徴的だ。
いずれにせよどの曲においてもマーク・マンゴールドによるキーボードを前面とした、その独特なメロディックさが光っており、なかでもトップチューン#1″I Don’t You Know What Love“(↓)は名曲としてメロハー界隈には伝えられている。
とはいえ、さすがに40年の月日はそれを色褪せさせさせてしまった。ちょっと今聴くと、カビ臭が先にたつのは否めない。
なんというか、「メロハー」というよりは、古臭いいハードロック。今聴くとそういう印象だ。ちなみに他の収録曲も、まあ似たような感じばかりだ。
おっと、全体のレビューは、週末の記事に譲るとする。
とにかく、この時代にこういうバンドによる、こういうアルバムが世に出たのだ、と思っていただければそれで十分だ。
今回の話題のメインはそこじゃない。
そこで話の時計の針をぐぐぐっと40年ほど早回しし、この今に戻すとしよう。
さあ。
実はそんなTOUCHが、その40年近くの時を経て、静寂をブチ破ってなんとオリジナルメンバーによって再結成。
そしてこのたび、ほぼいきなりな状況下で、続く2ndアルバムを製作・リリースしたのである。
それが今回扱う、このアルバムだ。
とはいえ、実のところ幻の2ndアルバムというのは、既に存在していた。
というのも先に挙げた1stアルバムの後、彼等は続くアルバムの製作に向かっていたのである。
先に「公式には」と触れたのは、そういう意味においてだ。
しかしすったもんだあって、バンドはマネージメントやレーベルともトラブルになり、結果的にはお蔵入り。
そのままバンドの活動もグタグタになっていき、やがて消えてしまう…という時折聞くような顛末だ。
なおその幻の音源集なるものは、ここ日本では先のアルバムのCD化に際して「Ⅱ」と題されてカップリング収録されたため、割と市場では出回っていた。当時は中古屋でもまま出くわしたものだ。
尤もぼくはそれをそれを持ってはいないのだが、ま、ぶちゃけ別に聴かなくたっていいかな、という程度のものでしかない。
(しかもなんと今ではSpotifyですらも聴けるということだが、それでもま、ぶちゃけ別に聴かなくたっていいかな、という程度のものでしかない)
というわけで、40年ぶりにいきなり出された、TOUCHの一応公式、2ndアルバム。
いや、なんで今頃になって出してきたのが全くの謎でしかないが、感慨があるような、ないような…というおっさんが世の大半だろう。
(そもそもTOUCHを知っていて、その新作に向かっているおっさんがどのくらい存在するのかっていう分母の話でもあるのだが)
まず、40年の記憶をせーの!で埋め尽くさんとするかの、のっけからの憂いたっぷりなキーボードでのご挨拶。
哀愁を帯びた美メロをまとった、いかにもTOUCHらしいメロディアスな#1″Tomorrow Never Comes“だ。
40年ぶりの再開を迎えるにふさわしい。
…って40年ぶりに再開して、で明日絶対こねーのかよ!?
とはいえ、先の1stとは違って、こちらは割と現代的な味付け、古臭さは感じない。
うん、正しくい今のメロハーしている。出だしはなかなか、悪くない。
更に続くのは、#2″Let It Come“。(トップ動画参照)
おお、なんとこれは明らかに先に触れた1stの名曲、”I Don’t You Know What Love“を意識している。
リフ使いがセルフオマージュというか、そんな曲であり、往年のファンの心をつかむこと請け合いだ。(多分)
その他、QUEENを意識した大仰さや美しいコーラスを含んだ楽曲や、プログレッシヴな側面や様式美らしいプレイを見せるなど、節々にあの頃のTOUCHの片鱗が伺える。
成程、あのTOUCHだ。そう言われれば、確かにあのTOUCHかもしれない。
なかでもRAINBOWみたいな古典様式美ハードロックをかます#8″Lill Bit of Rock N Roll”など、なかなかにカッコイイぞ。
とはいえ、マーク・マンゴールドはTOUCH後も、DRIVE SHE,SAIDなどでの活躍の他、裏方やプロジェクト、助っ人などなどを通じて、長くメロハー業界を生きてきた。
そっちの畑の事情をぼくは詳しくは知らないが、どうやらそれなりのベテラン、重鎮として知られているらしい。
それもあってか、ここで聴けるサウンドも40年前の古いまま、というわけではない。
モダンとまでは全く至っていないけれど、でもそれなりにアップデートはされている。
だからそこには嘗てはなかった要素も多く含まれているのが印象的だ。
(そう思えば、ちょっとDRIVE SHE,SAIDぽくもあるかな)
要はバラエティを広げ、色数を用い、曲調を変えて、今になんとか彼等なりにバージョンアップしながら、メロディックかつキャッチーなアルバムを作りをしており、前作に次ぐ40年を越えたTOUCHの2ndアルバムという意義とともに、今の彼等をも主張。
そこら辺はさすが、歴戦を重ねたマーク・マンゴールドならでは、といったところだろう。
ところで。
余談ではあるが、冒頭に解説したこのTOUCHの前身となっているAMERICAN TEARSであるが、なんと。
こちらも本作に先駆けて昨年、復活作を出しているのだという。
この(↑)いかにもメロハースメル香るオシャレジャケで飾られた「Free Angel Express」なるアルバムが、それだ。
こちらはぼくはまだ聴いてはいないのだが、いつか近くに触れて、ここでも取り扱ってみるとしよう。
しかし、ということはマーク・マンゴールドは今、TOUCHとAMERICAN TEARSを掛け持ちして活躍している、ということか。
60年代から音楽活動をしているのだから、御年一体幾つになるのかわからないが、メロハージジイ、かくありなん。老いてなお壮んとはこのことか。
全く、いつまでもたくましい続けてもらいたいものだ。
- アーティスト名:TOUCH
- 出身:US
- 作品名:「Tomorrow Never Comes」
- リリース:2021年
- HARC ROCK、MELODIUS HARD ROCK、様式美他