あの“Love Leaves The Way”の~HARDLINE/「Heart,Mind And Soul」:76p

アルバムレビュー
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HARDLINE/「Heart,Mind And Soul」:76p

傑作。それは時として罪なものである。
何故なら傑作は、傑作であればあるほどに、以降の作品へのまなざしを歪めてしまうからだ。

作者への期待値が、その傑作のレベルで高止まりしてしまう。
その傑作を基準に、その後の作品の出来が語られる。
その傑作にどこまで迫るか、どう超えたのか。そうした勝負に自ずと追い込んでしまう。
或いは時に作者の創造の方向性を規定する枷となってしまう。
そうやって、受け手や作者を過去の傑作に向き合わせる力を、暴力を孕んでいる。
かように傑作というのは、時として罪深く、呪わしく、怖いものなのだ。

あの“Love Leaves The Way”の。
HARDLINE、とその名を聞いたらまずそう返ってくるのが、メタル村の常識中の常識だ。

コーラを飲んだらゲップが出る。
風の強い時にションベンしたらズボンにかかる。
そのくらいの常識が、HARDLINEときたら、あの“Love Leaves The Way”の、なのである。

だからこそ。
Love Leaves The Way”と比べてどうか。
HARDLINEという看板を掲げる以上、背負わなければいけない宿命が、それだ。
それが嫌なら、違う看板を掲げればいい。違うバンド名を名乗ればいい。
だが、HARDLINEである以上、「あの“Love Leaves The Way”の」は嫌がおうにでも付いてくる。
それが傑作というものの、罪であり、呪いであり、怖さである。

そしてこのように、流石にもういいだろと思いながらも、HARDLINEというバンドをここで初めて語るにあたり、その傑作の呪力と重力からは逃れられず、仕方なくぼくもまたこうやって使い古された「あの“Love Leaves The Way”の」を語っているわけだ。

知らない人のためにも一応、簡単に解説しておこう。
1992年、2枚の傑作アルバムを残してBAD ENGLISHが解散した後、ギタリストのニール・ショーンはこのHARDLINEというバンドを結成する。
そのHARDLINEがリリースした1stアルバムが「Double Eclipse」だった。

この「Double Eclipse」は基本的にはストレートで快活なアメリカンハードロックンロールを基調とした作風となっていたのだが、そのアルバムの日本盤としてボーナストラックが1曲追加されることになった。
それがメロハー史に伝えられることになる名曲、あの“Love Leaves The Way”だったのだ。

しかしこの曲はあくまで日本盤CD限定のボーナストラックだったから、日本のリスナーにしか広まることはなかった。
そしてHARDLINEは、そのアルバム1枚だけを残して、活動の幕を下ろすことになる。

だが、秀逸なまでに美しいメロディをたたえたそのパワーバラードは、やはり同アルバムに収録された”Hot Cherie”、”Everything”といった名曲を携えながら、HARDLINEの名をメロハー史の名曲録に刻むことになる。
それこそが、「あの“Love Leaves The Way”」なのである。

さて、ここで重要なポイントは、バンド本人達もその珠玉の名曲の存在を、そこまで重視していなかった、ということだ。
そう、「あの“Love Leaves The Way”」の存在は、当初はバンド自身も無自覚だった。
だからボーナストラック扱いだった。
だからアルバムには収録させなかった。
ということは、やもしたら「あの」は世に出なかった可能性すらあっただろう。

つまり。傑作は、思惑の外で偶発的に生じたものだった。
その偶発が、気せずして彼等を「あの“Love Leaves The Way”の」にさせてしまった。

さて、このHARDLINEが活動を再開するのは、2002年のこと。
そこにニール・ショーンの姿はなかったが、ヴォーカリストであったジョニー・ジョエリを中心に、新たなメロディアス・ハードロックバンドとして転生を果たすことになる。

と、ここまでがおおむねのバンドの歩み。
彼らはその後もコンスタントに音楽作品を製作しており、本作はそこから歩を進めての7作目、復活後では6作を数えるフルレンス・アルバムとなる。

というわけで、本作だ。
正直、ぼくもそこまで彼らを熱心に追っていたわけではないのでアルバムのチェックも飛び飛びなのだが、これを聞く限り、王道的なUSハードロックをベースにしながらも要所、要所で優美な哀愁を帯びたメロディを見せるといった、アメハー道を今尚も踏み続けている、といったところだろう。

今回も、#2”Surrender”や#3”If I Could I Would”、#6″Waiting For Your Fall“などといった佳曲を並べることで、彼らに求めるべきクオリティは相応にこなしている。
ここら辺の楽曲作りのツボの押さえは実に見事としか言いようがない。

加えて、ジョニー・ジョエリのソウルフルな歌声も、実に見事だ。
伸びやかで、色みがある。
しかも時折ジョン・ボンジョビを思わせる歌唱など、経験とともに器用さを混ぜ込んでいる。
かたや新加入のギターも悪くない。

そう、全体的に、悪くない。
悪くはないが、「あの“Love Leaves The Way”の」を超えるレベルでは、ない。

いや違う。
そうじゃない、みんなわかっている。
超えてない、ではなく、もう超えられないのだ。
もう、「あの」を生み出す魔法は、存在しないのだ。
だって「あの」は、そもそもからして偶発なのだから。
作ろうと思って、作れるものじゃない。
あのボーナストラックの奇跡は、一回性のものだった。
みんな判っている。でも、判っていながら、そう言ってしまう。
それが、傑作の怖さだ。罪だ。呪いだ。

今後もHARDLINEは、「あの“Love Leaves The Way”の」と呼ばれていくだろう。
そして作品の都度、「あの“Love Leaves The Way”の」を物差しに使われるだろう。
それでも彼等は、その道を行くしかない。
HARDLINEという看板を掲げるものの、傑作を生み出したものの、それが宿命だ。

 

★追記(2021年07月23日)
「今週のチェック」から引用。

いやね、そりゃ確かにレビューじゃこんな書き方したけれど、その「あの”Love Leaves The Way“」はさておいても、これもなかなかどうして良いアルバムっすよ。
ていうか正直、楽曲レベル勝負だけだと、先のLEBROCKよりワンランク上で、こっちの勝ちだ。
(勿論、比べる必要は全くないけれど)

まず、旨味あるギターリフから入り、愛情と熱感を高まらす#2″Sureender“(↓)が中でも秀逸だ。

しかもここから快活に広がる#3″If I Could I Would“、そしてちょっとどこかBON JOVIみをほんのり感じる(?)アメリカンテイストな#4″Like That“といった、この前半一連の流れ。

このようにサラっと曲紹介を流してしまったけれど、実際、良曲が詰まっている。
しかも名メロハートラックのみならず、本来のアメリカンハードロックらしさとともに、それを活かしてアルバムに抑揚あるカラーに富んだ作りもちょっとしたポイントだ。
なかでも躍動感ある#6″Waiting For Your Fall“なんかは、特に優れたスパイスかと。

勿論ながら、これらの程よくハスキーで力のあるジョニー・ジョエリの歌いっぷりも聞きどころ。
あ、前作でジョシュ・ラモス(gu)に替わって入ったギタリスト、マリオ・ペルクダニも、でしゃばらず地味にいい仕事しとるよね。

そんな、さすがはこの道のベテランといった安定感ある、安心印の完成度をもったオッサンアメハーの良心作だと思います。
なのでぼくの評点はこのくらいにしたけれど、でも人によったらあと数点は全然上がってもおかしくないだろうし、それも頷けるんじゃないかな。

DATE
    • アーティスト名:HARDLINE
    • 出身:US
    • 作品名:「Heart,Mind And Soul」
    • リリース:2021年
    • AMERICAN HARD ROCK、MELODIUS HARD ROCK、HARD ROCK他
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