PAUL GILBERT/「Werewolves Of Portland」:70p
速弾きギタリストのソロワークによるインストゥルメンタル・アルバム、というと思わずちょっと身構えてしまう。そういう世代だ。
ネオクラ・シュレッダー達による弾き倒し弾き散らかしインストのアレが、まず真っ先に脳裏をよぎる。そういう世界だ。
兵どもが夢の跡、かつて80年代、ときは戦国Shrapnel時代には、我こそ世界最速、寧ろ敗北を知りたいとばかりに「グラップラー刃牙」な勢いで、そんな超絶速弾きインスト・アルバムがピンからキリまで乱発されていた。
黒き稲妻、トニー・マカパインの「Maximum Security」。
ネオクラの申し子、ヴィニー・ムーアの「Time Odyssey」。
ここらはまだピンのほうだ。死刑囚レベルといっていい。
更には、薄幸の天才、ジェイソン・ベッカー。
東洋音階のマジシャン、マーティ・フリードマン。
Mr.様式美、デヴィッド・T・チャステイン。
アクロバットのスペシャリスト、マイケル・アンジェロ。
伝説のスウィープ王、グレッグ・ハウ。
マルチギターのプリンス、リッチー・コッツェン。
マカパインの秘蔵っ子、ジョーイ・タフォーラ。
ザ・ラストボルト、マイケル・リー・ファーキンス。
そしてメジャーからの刺客、達人ジェフ・ワトソンズ…。(※1)
いやはや、まさにShrapnel烈伝とも言うべき様相だ。
とにかく、この手の速弾きギターものはジャンプの打ち切り漫画みたいに履いて捨てるほど出回っては、彼等のギターバトルはこれからだ!次作にご期待下さいとばかりに記憶の果てに履かれて捨てていかれ、90年代以降ほぼほぼなかったことにされて、で今に至っている。
ちなみに、ポール・ギルバートというギタリストのデビューもまた、インストではなかったが例外なくその地下闘技場Shrapnelからであり、つまりは速弾き界の徳川三成ことマイク・ヴァーニーに見そめられた剛腕シュレッダーズだった。
しかもゴリゴリのパワーメタリックな速弾きで、問答無用に情容赦なく弾き殴り散らかすという、絵に書いたまんまの脳筋豪力パワーファイター枠。
なんだか「技を越えた圧倒的な力!」とか戸愚呂弟みたいなことを言いだし兼ねない類だ。
そんなオセオセのアグレッシブプレイ派だった彼にも先に合わせて通り名を付けるとするなら、やっぱりこれか、「ストリートリーサル」。
おっと、こればかりはぼくが勝手に名付けたものじゃない。彼自身が、しかもデビューアルバムといういわば名刺に自ら冠したタイトルである。
だからそんな彼がRACER Xから激渋ポップなMR.BIGの結成に至ったときには「気は確かか!?」と疑われたものだ。(※2)
さて、んなことも今や遥か遠い若気の至りなポール・ギルバート、ソロ16枚目。
ただし今回はギターオリエンテッドなインストゥルメンタル・アルバム、であるという。
マジか?それともアレか?
アレを出してしまうのか?知っているのか雷電?
いや流石に「アレ」はもうやらないだろうが、それでも色々と大丈夫だろうか。やっぱり、思わずちょっと身構えてしまう。
だって、ギター・インスト・アルバムと言われたら、世代じゃなくても、敷居を感じてしまうところだろう。
とはいえ、何でも前作もやっぱり同様のインストものだったようで、どうやら今回が初めてというわけでもなかったご様子。
情弱でチェックが甘いのはおっさんの持ち味だ、許してくれ。
そんな本作は、何でもポールいわく「インストなんだけど歌詞があって、ギターがヴォーカルの代わりに歌う」のだという。
おまえは何を言っているんだとミルコ・クロコップがギリ返してきそうな物言いだが、まあ聴けば成程、と納得は出来る作りだ。
ジャジーな曲からロックンロール調、ブルーズからスロー・メロウチューンまで、バラエティに富んで幅広く楽曲を取り揃えた内容は、しかしいずれも彼らしいキャッチーなメロディに溢れており、それらを先のようにギターがまるで歌い上げるようにプレイされていく。
当然「アレ」はやっていない。
と思いきや、#5”Argument About Pie”(↑)。
ネオクラ・リードリフなアレが一瞬顔を出し、あわや「ケンガンアシュラ」みたいな血塗れ最速比べに!?と一瞬だけヒヤリとさせられたが、ご安心あれ。(=残念)
全体としてはよく出来た、メロディアスなポップソングに仕上がっていた。こういうカラフルな楽曲展開の妙味もまた、彼らしい。
なおこの曲は、ポール自身の例のユルイラストと一緒に歌詞がついた、おまえは何を言っているんだな「インスト・リリックPV」になっているので、興味があればご確認されたし。
※1、2:冗談なので本気にしないように
★追記(2021年07月10日)
「今週のチェック」から引用。
あのさー、こんなギターインスト、誰が求めてんの?
…てのが黒い崎っぽからの本音っすよね。やっぱ。ポップでカラフル、多彩で多才。
じゃあ、歌入れろよ、と。
「ギターが歌う」とか、そういうゆで理論マジいらねーから。
せめて数曲くらいは歌モノ入れてくれ。
聴く気もおきなきゃ意味ねーだろが、信者商売でもしたいのか、と。もうそんな信者も老人ばっかで残ってねーだろが、と。実際、収録曲は決して悪くないのだから、ギタリストとしてのエゴを通すのはそこら辺までにして、次はいい加減ちゃんと普通にロックして欲しい。
折角ポップでメロディックないい音楽作れる人なんだからさ。ったく、こういうところ、やあっぱり根っこがストリートリーサルなギタリストなんだよな。
- アーティスト名:PAUL GILBERT
- 出身:US
- 作品名:「Werewolves of Portland」
- リリース:2021年
- HARD ROCK、INSTRUMENTAL、他