藍井エイル/「Kaleidoscope」:86p
名実ともにゼロ~テン年代アニソン・クイーン藍井エイル、活動再開後初となる4年ぶりの5thアルバムが先日リリースされた。
CYBERブルーな彼女らしい凛とした疾走感は健在なのだが、しかし嘗てのようなゼロ~テン年代アニソンメタル…というと誤解されそうだが、そんなエッジの効いたアップテンポな歌ものギターロック、メロディアス・ハードロックと言ったほうが良いのだろうか、そうした彼女の初期の頃に比べると、無論それを軸にしつつもここではよりバラエティを増しながらモダンにアップデートさせたというチャレンジブルな印象が強いか。
それもあってか、ゴシック風のオープナーから鍵盤とともに静かに駆け出すM2“心臓”しかり、軽やかでギターも控えめな序盤のインパクトがややながら弱めに感じたのだが、しかしそれはあくまで挨拶代わりの助走とばかりにパワフルに躍動するM4“ANSWER”のヘヴィネスが、これぞとばかりのパンチを放つ。
かと思えばM5“HELLO HELLO HELLO”では、アコースティックに乗せた朗らか且つ柔和なポップシンギングで可憐な声優系フォークロアの新境地を見せてカラバリ展開。
さらにファルセットも華麗に高まる鮮やかなM6“PHOENIX PRAYER”、しっとりとエモーショナルに熱唱するラブバラードM7“ロゼ”など、その表情豊かで色相変幻なさまは「万華鏡」(Kaleidoscope)のタイトルにもある通りにかなり意識的だ。
その勢いで中盤をあれやこれやと曲調自在に彩りながらなだれ込む、ジャジーな異色さが本作の聴きどころM10“Campanula”から(ここでのリズム隊の仕事ぶりが秀逸!)、いかにも彼女らしい熱した情動がラウドに踊る、私的には今作イチの名曲M11“鼓動”(↓)と続くクライマックスの畳み掛けはまさに圧巻。
なぜゆえにこの蒼井エイルというシンガーが女王たりえるのか、その類まれなる実力と才能がここに克明に刻まれていよう。
にしても「この世界線だけは繋ぎ止める」と歌うM4“ANSWER”や、M11“鼓動”の「鳴らせ鼓動を」など、ハードロッキンな勢いに乗って轟き歌いつける際の彼女のクールネスから発される力強さ、「情圧」とでもいうべきパッショネイトさには、やはり心打たれるものがある。
さらにはそこでの「強くなりたいなら過去を超えろ」(M11“鼓動”)が胸響くように、新機軸にも果敢に挑みながら、しかしこれぞというエイル節の曲陣を並べつつ、嘗てのような突っ走りから養ってきた歌い手としての円熟と貫禄をも主張。
結果、往年の初期金字塔の壁をここで越えたかはさておき、それでも「不死鳥の炎」(M6“PHOENIX PRAYER”)のごとく復活と同時に次なる飛躍をも果たす力作に仕上げてみせているから見事だ。
…とその傑出ぶりに喜んでいたら、なんと。
ここにきてアルバムリリース間もなく、またもや体調不良で活動停止のニュースが飛び込むなど。
いやはや、折角こんな素晴らしいアルバムを出しながらプロモーションも出来ずにと残念に思わずにいられないが、しかし。
そう聴けば何だろう、このアルバムにも随所に出てくる決意表明めいたまっすぐさにふと滲んでいる「そう思わなければいけなさ」「自分に言い聞かせる感」といった強迫観念の断片が、ふと気に引っかかってくる。
となると本来感動的ですらある「ガンバレあたし賛歌」でポジティヴにアルバムをシメるラスト曲M13“YeLL”だが、そこに並ぶ「努力」「自分を信じろ」「夢を叶えさせろ」などの歌詞もまた然りで、違って聞こえるかのよう。
一体彼女ほどの孤高の力量と才能を持ちながら、とパンピーなぼくらはつい呑気にふるまいがちだが、つまりはそれだけトップシンガーとして観衆の前のまばゆいステージに立って、その歓声と拍手とスポットライトという果てしない重さに一人耐え続けることがいかに大変なことなのか。
そんな恐ろしいまでに彼女にのしかかる光の重圧を、ここに思わずにいられない。
そう、「輝き歌い続ける」とは、かくも過酷なことなのだろう。
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- アーティスト名:藍井エイル
- 出身:日本
- 作品名:「Kaleidoscope」
- リリース:2023年
- ジャンル:J-POP、POP ROCK、アニソン、