さあ、遂に始まってしまいました、2022年。
色々やっていきたいところだけど、まずはここから昇る朝日を眺めながらコオヒイひいてレコオド流して、今年もやるんだよ正月から休日恒例ヴァイナルカフェ。
さあて、元旦はゆっくりしたし、こっから2022年初めていきますか。
それじゃ、一年、いっくわよー!
MEGADETH/「Killing is my business…and business is good!」(1985)
昭和63年。
日本を沸かせていたバブルの恩恵など一体どこにあるのかもすらわからない、そんな北関東の片田舎。
今よりもずっと大人や社会がうるさくて、今よりもずっと同調圧力が息苦しくて、今よりずっとロックが反抗のアイテムだった、そんな時代のとある進学校に、ぼくは入学した。
F田さん。
当時そのぼくの教室には、少しトンガった、長いストレートの髪に加えて左目を長く伸ばした前髪で隠しているような、そんなクラスメイトの女の子が座っていた。
あ、いや、最初に言っておくけど、違うのだ。
F田さんは、好き、とかいうようなそういう恋愛対象の子では全くないのである。
マジで、初恋の相手だとか、そういうのとはF田さんはちょっと違っていたんだ。
勿論、彼女は決してブスだとかじゃ全然なく、むしろルックスはどちらかといえば可愛いほうだったんだけど、でもそういうのを一切感じさせない子だったのだ。
何よりも、彼女とは余り、話さなかった。
いや、話せなかった。というより、彼女は「話させ」なかった。
なんというのか、F田さんは愛想もあまりよくなくて、どこか声のかけづらい、一人だけそっぽを向いているような、むしろ「あたしに話しかけてくれるな」オーラを漂わせるような子だったんだ。
別段派手でも華やかでもないんだけど、でもちょっとクールで、少し怖くて、でも少しカッコよくて、それに少しだけ不良の臭いのする、そんな子だった。
だからぼくらクラスの男子からも、F田さんは「おっかなくて取っつきづらい女子NO.1」の烙印を押されていた。
でも、ぼくもクラスのロック好き組の一員だったし、彼女も一人、いつもギターを背負って通学していた。そこにはちょっと、興味があった。
そう、F田さんは、いつもエレキギターを背負っていた。
彼女はいつもギターを背負っていて、いつも一人で、いつも左目を長く伸ばした前髪で隠してて、そしていつもみんなが好きそうなアイドルや歌謡曲や邦楽やチャート音楽なんて微塵の興味もなさげにそっぽを向いていて、誰とつるむことなく凛とした、なんというか「鋭さ」とでも言うような存在感をまとっていて、女の子なのにそこがちょっとかっこよかった。
要するに、F田さんは典型的な昭和のロック少女だったのだ。
「どうやらF田さんはヘビメタ好きらしい」
ホラやっぱりな、という表情と一緒に周囲から伝わってくる彼女の噂に、寧ろぼくは気になっていた。
だって、ぼくもロックが、洋楽が、メタルが好きだったからだ。
F田さんは一体、どんなバンドを聴いてるんだろう。
どんなバンドの、どんなアルバムが好きなのかな。
どんなギタリストが好きで、いつもどんな曲のギターを弾いているのかな。
それだけは、ちょっと気になった。
彼女のことが好きだとか、そういうんじゃ全然ないんだけど、でもそんな話は同志としてF田さんとやっぱりしたかったのだ。
そんなある日の、期末テスト。
ぼくはたまたま、F田さんの机に座ることになった。
テストを終えた後に、本当に何気なく机の中に当てた手に、1本のカセットテープのケースがぶつかり、床に落ちた。
ん?
机にまた収めようと手に拾ったカセットテープケースの背中には、なんと。
F田さんが愛情を込めて書いたのであろう手書きのバンドロゴのあとに、例のあの書体を模したペン字で、何とこう書いてあったんだ。
「Killing is my business…and business is good!」
ああ!
MEGADETHだ。
これ、MEGADETHだよ。
ぼくもこないだ聴いたばかりだけど、でも知ってる。これ、MEGADETHの1stアルバムだわ。
あのいつも一人でそっぽを向いては「あたしに話かけてくれるな」オーラを漂わせて、少しクールで、少し怖くて、少しだけ不良の臭いのする、でも凛とした鋭さをまとったF田さんは、実はMEGADETHが好きだったんだ。
昭和63年。
今よりもずっと大人や社会がうるさくて、今よりもずっと同調圧力が息苦しくて、今よりずっとロックが反抗のアイテムで、そしてその最先端、その一番尖った鋭いところに、このMEGADETHが、このアルバムが、存在していた。
そんな時代の、片田舎のとある進学校で、ぼくはF田さんがこっそりと机に教科書と一緒にしまい込んでいた反抗と先鋭のアイテムに、ちょっとだけ、いや実はかなり心を踊らされた。
しかし、結局のところ。
F田さんとはほとんど話すこともなく、そんなチャンスを得る間もなく迎えた進級によってクラスも変わってしまうのだった。
だからF田さんとは結局、ロックの話もギターの話もMEGADETHの話もすることなく、離れてしまった。
だけどその後、ぼくはMEGADETHというバンドをより深く知ることになり、そして同時にF田さんがこのバンドを、このアルバムをどうして好きなのかをも、より知ることになるのだった。
そうだ。毎日ギターを背負いながら、進学校の机の中に、ひっそりとMEGADETHをしまい込んでいた、F田さん。
みんながアイドルや邦楽、オリコンや全米チャートにキャッキャワイワイと夢中になっていたなか、一人そっぽを向いてまるでその声をシャットアウトし、「あたしに話かけてくれるな」と訴えんばかりにあの手書きのカセットテープケースの中身をウォークマンで流していた、F田さん。
いつも一人で凛として、その左目を長い前髪で隠してはみんなとは同じものを見ようとせず、その鋭く尖ったような視線でMEGADETHを見つめていた、F田さん。
もうあまりよく覚えてはいないのだけれど、ぼくはあの時分。そんなF田さんにやっぱり惹かれて恋していたのかもしれない。
- アーティスト名:MEGADETH
- 出身:US
- 作品名:「Killing is my business…and business is good!」
- リリース:1985年
- ジャンル:THRASH METAL、HEAVY METAL、HR/HM
よって、そのほとんどが70~80年代の古いものばかり。
尤も音楽批評というかしこまったものよりは、大概がただの独り言程度のたわいない呟きなので、ゆるーく本気にせず(笑)読んでいただければ幸いです。