食っては飲んで、飲んでは食って、そして飲んでは食っていた、昨日までの新潟旅行からようやくご帰宅。
恐る恐る体重計に乗ると…げげーっ、やっぱり増えてなさるー!←当然の自然現象
そんな旅疲れを癒すための、月曜休みだけど休日恒例ヴァイナルカフェ。
THE JON SPENCER BLUES EXPLOSION/「Now I Got Worry」(1996)

THE JON SPENCER BLUES EXPLOSION/「Now I Got Worry」
それにしても、昨日まで行っていた新潟市は、本当にいいところだった。
ねっとりぐったりとうんざりされるような、こっちの暑さに比べたら夏の過ごしやすさはまるで別格だったし、
何よりも料理も、魚も、お米も美味しくて、
それにぼくが大好きな日本酒がもっと生活に近く寄り添っていて、
そして街行く女の人も綺麗だった。
それと、強く感じされたことなんだけど。
新潟市という街には、地方都市にありがちな、というか日本全国各地の地方都市をくまなく染め上げている「諦め」というやつが、ほとんど見えなかった。
そう、新潟市は、この疲弊しがちな時代にも、まだ「ここ」に諦めてないのだ。
もしかしたら、実際にはそんなことはないのかもしれない。
この旅行の間ぼくがそうではない、「ここ」に全然諦めてない人達に囲まれていたからなのかもしれない。
いや、でもやっぱり違うな、だってぼくは確かに感じたのだ。
そう、この街は、
新潟市という街は、「ここ」であることを諦めて、ない。
新潟市という「ここ」は本当に魅力的で素敵なところだから、「ここ」をもっともっと本当に魅力的で素敵なところにしていくんだ。そう広げていくんだ。
こんな時代にも「ここ」からなんとかするんだ。
いや寧ろ、こんな時代で「ここ」だからこそ、なんとか出来るんだ。
街のいたるところ、いたる参加イベント、いたる店でその「ここ」への思いが伝わった。
そういう湧き上がるような「ここ」への熱情を、気持ちよく感じ伝えさせてくれる街だった。
1996年リリース、ジョン・スペンサー、いわゆるJSBXとしての4thアルバム。
本作で彼は、彼にとっての「ここ」が如何に魅力的で素敵なところかを、ものの見事に生々しく、とてつもなく熱く、そしてクールこの上なくサウンドに焼き付けてみせた。
ここでいう「ここ」とは、当時の様々なロック同士が激しく衝突と融合を繰り返していた、そんな音楽的空間としての「ここ」でもあり、
またバンドとしてのフルレンス4作目というキャリアとしての「ここ」でもあり、
また同時に、1996年という時代性としての「ここ」のことでもあった。
今「ここ」という熱量。熱気。熱源。
パワー。エナジー。可能性。
それがこのアルバムには、ぎゅうぎゅうパンパンに詰まっていて、だから針を落とした瞬間から、その「ここ」があぎと剥いて襲いかかってくる。
これはまさに、そんな類のアルバムだ。
「ここ」への思いが作り上げたアルバムだ。
ジョンスペのいた、あの1996年。
オルタナティブという混沌の中で、ブルーズとハードコアパンクとガラージロックとHIP HOPとが渦巻いてとぐろを描き、マグマのようにどろどろに溶けては弾けていた、あの1996年。
そんな1996年の彼がいた「ここ」が、あらん限りの勢いで容赦なく爪剥いて襲いかかってくる。
それがこの、実はジョンスペ隠れた最高傑作たる本作だ。
やれミクスチャーだローファイだとローガイどものありがたサブカル扱いをぶち壊すような、パンキッシュな衝動性。
当代性を帯びたようなダークトーンを、ひび割れた叫びで切り裂き進む冒頭、“Skunk”から“Identity”の刹那的スピード感。圧倒的インパンクト。
それらには、あの時代の「ここ」の先端をかけ抜けていくような、そんな未だに消えすらしない生々しさがレコードの溝の奥に刻まれ残っている。
ところで。
昨日の昨日までぼくは全く知らなかったのだが、新潟という昨日までいた「ここ」は、実は日本最大の漫画の聖地でもあるという。
バカボン、おそ松くん、ドカベン、うる星やつら、奇面組、パタリロ、イニD、抜作先生、超人ロック…。
驚いたことに、ぼくらが慣れ親しみ愛したもの、ぼくらの胸を踊らしてきたものたちはみんな新潟という「ここ」から生まれたものだった。
しかもそんな新潟市という「ここ」では、この時代に今なおそんな漫画やアニメなどのコンテンツに向けた若い才能を「ここ」から育もうと、生み出そうと、芽吹かそうと、作りだそうと、送り出そうとしている。そういう街だった。
いや、漫画だけじゃない。
食。酒。ファッション、等々。
そういう文化を、「ここ」から生もうとしている街だった。
そうか、それで理解出来た。
だから新潟市というあの街は、あの街である「ここ」に諦めていないのだ。
「ここ」が生み出す力を信じているからこそ、知っているからこそ、諦めていないのだ。
そうだ。
いつだって「ここ」は、色々なものを、ワクワクと胸踊らせる新しい何かを生み出してくれる。
だからこそ「ここ」なのだ。
それこそが「ここ」の力なのだ。
旅の思い出と一緒に買ってきた新潟土産とコーヒーと一緒に、スピーカーを揺さぶらすこのアルバムを前にふと思いをたぐってみる。
なるほど、思い起こせば1996年という「ここ」は、確かにそういうところだった。
確かに、熱い「ここ」だった。
ジャミロとRADIOHEADに本格的な火をつけさせ、他方ではKORNとRAGE AGAINST THE MACHINEとマンソンらを爆発させたのが、1996年という「ここ」だった。
そしてその「ここ」から、このアルバムも生まれた。生み落とされた。
いつだって、どこだって「ここ」にはやっぱり、何かを生み出す力があるものだ。

THE JON SPENCER BLUES EXPLOSION/「Now I Got Worry」
- アーティスト名:THE JON SPENCER BLUES EXPLOSION
- 出身:US
- 作品名:「Now I Got Worry」
- リリース:1996年
- ジャンル:オルタナティヴ、ブルーズ、ガラージロック
よって、そのほとんどが70~80年代の古いものばかり。
尤も音楽批評というかしこまったものよりは、大概がただの独り言程度のたわいない呟きなので、ゆるーく本気にせず(笑)読んでいただければ幸いです。