MIDNITE CITY/「I Tch You Can’t Scratch」:78p
「メロハーは、面倒臭い」。
そう思っているのは、果たしてぼくだけだろうか。
これがただのイメージであるなら申し訳ないのだが、多分ここ二十年位のことであろうか。
その間にじわりじわりとメロディアス・ハードロックは、つまりはメロハーは、兎にも角にも触れるのが面倒臭いものに成り下がってしまった。
正直、そうとしか思えないところがある。
その理由は、割と明白。
要は、老人とオタクしか聴かないからだ。
大体、面倒臭い奴らしか聴かなくなり、そして面倒臭くさせたい奴らしか聴かなくなったのだから、そりゃ当然の帰結で面倒臭くなるだろう。
だからメロハーの語り口は、いつもマウント情報ゲームだ。
やれ何処どこの誰それが、何某を使って、まるで何たらのような作風で…。
ラーメン屋の客に対し「あいつらはラーメンじゃなくて情報を食っている」と喝破する漫画があるが、さながらこれは「メロハーじゃなくて、情報を聴いている」かのようではないか。
だからメロハーは、面倒臭いのだ。
さて、そんな傍らから見ても面倒臭そうなメロハー界隈であるが、しかしその周辺には意外と敷居の低そうなところもあったりする。
例えば、バッドボーイズR&R、ヘアメタル、80年代志向のリバイバル枠。
ここら辺のものは「いわゆるメロハー」の範疇外な上にオタク向けではない分だけ、「どーせ女子供向けだろ」だの「どーせ痛々しい田舎モンの戯言だろ」とばかりに格下にナメられているおかげで、面倒臭いしがらみが割と薄い。
しかも、それでいて時折拾い物があるから、侮れない。
実は彼等のこれも、そうした類だ。
イギリス出身のヘアメタル・リバイバリストによる、3rdフルレンス。
一般的な認識は、ほぼ、それでいい。
何せヴォーカルは、元TIGERTAILZときた。
いいねえ。TIGERTAILZってのがナイススメルだ、十分油断に値する上ネタだ。
いい塩梅のところを、なんとも突いてきてる。
そして見よ、このいかにも感しかないジャケアート。
今更タトゥージャケって、田舎の中学生じゃあるまいし、あまりイキるなよ弱く見えるぞ。(笑)
きっと、そう思うだろう。
でも、これを聴いたらどうだろうか。それでもその認識は、変わらないだろうか。
そうなのだ。
正直に言うと、ぼくも最初は似たように思っていたのだ。
しかしこれが、存外悪くない。
いや寧ろ、ナメていた分だけ「ちょっと待て!?」が大きくなる。
何せ、そっちの路線は、ほぼトップ2曲のみ。
そこからポップアップするアメハー展開が、なんとも爽快だ。
明朗さが気持ちのいい#3”Fire Inside”から、先の#4”Darkest Before The Dawn”へ。
更には続く#5“I Don’t Need Another Heartache”も絢爛キーボードの効いた快活キラキラナンバーだ。
これら前半の流れの見事さもさることながら、全体的に甘口ながらも旨みのあるキャッチーな高明度ハードロックを繰り広げている。
うーん、#8″Chance Of A Lifetime“なんかも甘酸っぱくて嫌いじゃないし、ポジティヴに躍動する#10”Fall To Pieces“もいいぞ!?
…てほとんどいいじゃないか。
(ちなみに日本向けボートラの#11”Girls Of Tokyo”も、露骨なサービスはさておき、出来はいい)
ポップさが、メロディックさが、曲が、いい。以上。
そういう簡潔さが、このアルバムの持ち味だ。
面倒臭くなくていい。
構えなくていい。なのに、ストレートに、いい。
ときにそういうロックが聴きたくなる。
無性にそういうロックが聴きたくなる。
何故か。
それはぼくの面倒臭さを払拭してくれるからだ。
メロハーにかこつけて、七面倒臭いことをくっちゃべり倒すような、そういうぼくの面倒臭さを払拭してくれるからだ。
そうだ、白状しておこう。
困ったことに老人でオタクなぼくは、そしてこのように面倒臭くて面倒臭くさせたいぼくは。
このように、時折自分に刃を向けるかの毒を自己生成して吐き出しながら、こういうロックが時々聴きたくなるのだ。
★追記(2021年07月31日)
「今週のチェック」から引用。
元TIGERTAILZカッコワライにいたヴォーカリスト、ロブ・ワイルドカッコワライによるグラム・ハードロックカッコワライのニューアルバムカッコワライ。
…と、大概が油断するやつ。
でもこれが、意外といいっていうねカッコワライ。要するに、超WARRANT1stタイプ、あるいは超DANGER DANGERタイプ。
もしくは、中期さしかかりTREATタイプ。
そんなところすかね。ようはアメハーヘアメタル・リヴァイバル枠なんだけど、ポイントが幾つかあって、まず一つは英国産だということ。
甘いんだけど、この手の田舎北欧産のようなべっちゃりした感覚が割と緩和されている。それと、ヴォーカルの肩書き、元TIGERTAILS。
そう、この上なく香ばしいんだけど、それでもやっぱり年季ある人がやると違う。
しかもご丁寧に、グランジショックで崩れかかった90年代中期に「頑張ってオルタナ色入れてみた」みたいなM6″Blame It On Your Lovin‘”とか、あの時代に「スポンテニアス」とか評されてそうな甘酸っぱい(ただし酸味が先立つ感じ)痛風ナンバーまで仕込んでみせる手腕とその匙加減は、戦中派世代ならでは。
なので、こういうのとか(↓)「あーんもー!」とアナルがキュンとしちゃう大人はお試しあれ。
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- アーティスト名:MIDNITE CITY
- 出身:UK
- 作品名:「I Tch You Can’t Scratch」
- リリース:2021年
- BAD BOYS R&R、HARD ROCK、他