煙の向こうに星はなかった~METALLICA/「Load」(1996)

アルバムレビュー
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METALLICA/「Load」(1996)

昨年の年末に「えんとつ町のプペル」というアニメ映画を、見に行った。
これはお笑い芸人のキングコング西野亮廣氏が、自らの著書である絵本を原作に手掛けた素晴らしいアニメ映画である。
さて、その映画の中、主人公の少年プペルが煙に覆われて空が見えない町の中で、これまで星を知らないで生きてきたがゆえに「空に星なんてものがあるわけない」とあざ笑い、バカにする大衆に向かってこう叫ぶ、感動的なシーンがある。

「あの煙の向こう側を誰か見たのかよ!
誰も​見てないだろ?
だったら まだ分かんないじゃないかっ!」

これは、これまで夢を持てば笑われてきた西野氏自身の自己投影であり、「夢を持って挑戦をする者を笑うな、誰もその挑戦の先にあるものなんか判らないではないか」という彼なりのメッセージである。
勿論だが、ぼくはこれを全く否定しない。

だが、ぼくら大人は、みんな知っている。
痛いほどに、良ーく知っている。
確かに、誰もその「挑戦」の先に星があるのかは判らない。
やってみなくちゃ、そりゃ判らない。
そりゃそうだろう。
でも、明らかにその「挑戦」の先に星なんかないことだってあるし、そして多くの場合はそういうもんだし、だから笑うのだ、ということを。
そしてその「挑戦」を出来ない自分を慰めたり否定するために笑うのでは全くなく、本当に星なんかあるはずがないと心底思っているから笑うのだ、ということを。

そして、これも知っている。
多くの場合、その「挑戦」は、かなわない、と。
実際に、煙の空の先に星なんか、ない、と。
世の中えてして、そんなものだ、と…。

空がグランジ/オルタナという暗い煙に覆われた、90年代中期のメタル町。
みんなうつむいて「Hey,Low」とNIRVANAを口ずさむ中、ある一人のスラッシュメタルの王者METALLICAが、こう言った。

「この煙の向こう側を誰か見たのかよ!
誰も​見てないだろ?
だったら まだ分かんないじゃないかっ!」

そうして作ったアルバムが、この「LOAD」だった。
そして、やっぱり煙の向こう側には、星はなかった。
慌てたMETALLICAは、しばらく後に「やっぱ星、なかったわ」とばかりに、「RELOAD」というちょい舵より戻し気味な続編を作ることで体裁を取ろうと図った。

実際、この「LOAD」は作品としては明らかな失敗作だ。
だらけた楽曲。長ったらしい退屈なミドルテンポ。不必要な長尺。不要な曲。
METALLICAMETALLICAたらしめてきた、その一番悪いところだけが抽出されたかの、そんなアルバムだ。
少なくともぼくはそう思っている。

いや、本作に関しては色々と賛否の評価はあるだろうから、それはそれで別にいい。
これもこれでアリなのか、これは全くナシなのか、聴き手というポジションのいいところはそれを各々自由に受け止められるところだ。
それについて色々と語るのは、ちょっと別の機会にするとしよう。
今回ここでぼくが語りたいのは、次のことだ。

このアルバムにおいて唯一、しかしこれは明らかだと判ること。
それはMETALLICA自身が、このアルバムを作ったこと、この「挑戦」に失敗したことを後悔していない、ということだ。
寧ろこのアルバムを誇りに思っているに違いない、ということだ。
勿論これはぼくの勝手な想像だ。だが、古今東西、挑戦者とは常にそういうものだ。

挑戦は、大概、失敗する。
煙の向こう側に星は、大概、ない。
なぜなら、それが挑戦というものだからだ。
でも、それでもどうして挑戦するのか。
それは、挑戦しなかったら、それすらも判らないし、星は見られなかったけれど代わりに違うものが得られるからだ。
あるいは星がどこにあるかがよりわかるようになるからだ。
これは挑戦者だけが得ることのできる、何よりの宝物だ。
事実、METALLICAもまた、このアルバムに挑戦したからこそ、その後のMETALLICAがあるのだ。

そう、その煙の先に星なんか、やっぱりなかった。
それでもいい。
挑戦を、失敗を、笑われた。
それでもいい。
挑戦してよかった。挑戦したからこそ、得るものがあった。
挑戦者というのは、みんな一人の例外なく、そう思うものだ。
だってそれが「挑戦」だからだ。

 

以上、
挑戦に挑んで失敗し、煙の向こう側の星を見損ねた今日、このアルバムとともにぼくも自分の挑戦を誇ることにする。

DATE
  • アーティスト名:METALLICA
  • 出身:US
  • 作品名:「Load」
  • リリース:1996年
  • THRASH METAL、GROOVE METAL、LOUD ROCK、HEAVY METAL他
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