CHUNK!NO,CAPTAIN CHUNK!/「Gone Are The Good Days」:80p
その一曲にやられる、というときがある。
その一曲一発に、ノックアウトされる。
その一曲のインパクトに、頭を、胸を、心を、もっていかれる。
そういう名曲をキラーチューンなんて呼んだりもするけれど、まさにその一曲の存在に殺られてしまう、そういうときがある。
ポップパンクというのは時にそんな物騒なものを仕込んでくるから侮れない。
BLINK-182に、GOOD CHARLOTTEに、THE ATARISに、その他多くのパンクバンドに、その手でこれまでぼくはやられてきた。
迂闊に構えていたら、モノの見事に脳天を撃ち抜かれていたのだ。
CHUNK! NO, CAPTAIN CHUNK!。
おどけたバンド名が油断を誘うこのバンドは、フランス出身の勢いある五人組だ。
ポップパンク、そこにメタルコアのザクザクとした鋭角なメタリック要素を加えた彼等のサウンドは、イージーコア、なんて呼ばれているらしい。
呼び名はどうでもいいけれど、早い話が、はっちゃけたい盛りの若者がパーティ気分で聴ける、陽気なアゲパンク。
油断の準備も万全だ。
ぼくも彼等の存在はそりゃ前からも知っていたし、何ならアルバムだって聴くのはこれが初めてではないのだが、しかしどれを聴いたかまるで覚えてない。
多分2ndくらいじゃないのかな、あれえ違うのかな。せいぜいそんな程度の記憶と認識だ。
だからこのアルバムの位置付けも、良くというか、全くわかってない。
いや正直なことを言えば、もしかしたら今回も素でスルーしていたかもしれない。
この曲にさえ、出逢わなければ。
M8”Complete You”(↑)。
アルバムリリースに先行してMVカットされたのが、この曲だった。
ネットの音楽ニュースにあげられていたそれを、一体何の気まぐれでポチリとクリックしたのかすら、今や覚えていない。
しかし、その瞬間。
ぼくはまたしても同じ手をくらい、一発でノされることになるのだった。
青く澄んだような、爽快で伸びやかなメロ、
そしてどこまでも軽やかに躍動するビート。
途中入るブレイクダウンは、そのちょっとしたアクセントだ。
明度はあるが、なのにどこかうっすらと、しかし確かに切ない情景。
そしてブレイクの後、響くサックスが鮮やかなまでにエモーションを、さああーっ、と一瞬にして色めき染め上げていく。
その演出が、客演が、素晴らしい。憎らしい。ズルい。
そして控え目に言って、最高だ。
慌ててアルバムを、漁る。
数日前に出たばかりのそのアルバムでは、成る程、確かにその楽曲は抜きん出た存在感を発揮しては、いた。
ダントツのキラーチューンでは、あった。
だが、それだけではなかった。
そう、抜きん出たそれを囲む楽曲らも、旨味を備えて彩っていた。
これか。この手か。
知っているぞ、それをぼくは経験で、知っているぞ。
あるある、だ。
殺傷力を秘めた名ポップパンクの、その殺しの手順あるある、だ。
殺しの手順を順に踏んで、そのキラーチューンに至る。
朗らかにカラーリングを塗り重ねる、前半の構成。
そして、そのポップさを穏やかな手先で畳みあげる懐の深さとそれが故の伸力を見せる、M4”Marigold”。
良質なリフに先導されて力強さがみなぎるハードロックナンバー、M6”True Colors”。
滑らかな滑り出しで例の名曲の出番を整えるM7“Good Luck”。
そしてそれらを順序よく組み立て、そこからの、先のM8”Complete You”だ。
そのカードの組み方も、切り方も、何気に手慣れている。
これでスタジオフル4枚目、伊達にここまで至ってない。
にしても、やられた。
綺麗に油断し、綺麗にガードを崩して、そこに綺麗にスコンと入れられた。
これがポップパンクの恐ろしさであり、強さである。
いくらイージーコアだの何だのと呼び名を変えようと、その本質は何ら変わらない。
いくらメタリックなギターリフを入れようが、いくらデスヴォイスで咆哮しようが、メタルコアらしいブレイクダウンを挟もうが、そんなものは…とまでは言わないけれど、でも「いい曲を作る」。その最も重要な事柄の前では、「それがどうした」という些事でしかない。
そして。
そういうワンパンブッ殺な一撃を喰らいたくて、ぼくはこういうパンクを、ロックをずっと聴き続けているのだ。
★追記(2021年08月14日)
「今週のチェック」から引用。
アルバム的には、少し大人びてきたメロウネスの目立つ色合い、といったとこなのだろうか。
少し冷静になって聴いてみると、冒頭からの前説といい、トップから前半の「はい、イージーコアでござい」ってのが少々ベッタベタで取ってつけた感があって、正直一瞬、冷める。シラっとする。でも中盤あたりから、うまいこと手順を重ねていく。
その成長と成熟の塩梅が、丁度いい色味を見せていく。
成程、そろそろバンド的にも成長と成熟を示したいわけね。
何せフルレンス4枚目だ、そういうアルバムになってきたというわけか。そしてシメもいい。
M11″Tongue Tied“からM12”Fin.”の流れが実にキレイだ。しかし、だ。
それにしても、何はともあれ、M8″Complete You“のまばゆさよ。
このアルバムは、この神曲を際立たせるために存在している、とぼくなら言いたい。
そのくらいに、素晴らしいし、そのくらいに、殺された。
そんな、文字通りのキラーチューンだ。「夏はATARIS」ってのはゼロ年代メロパンク好きのど定番なんだけど、それに対してTWITTERでフォローさせていただいているとある方が先日、「思春期にそこそこイケてて、甘酸っぱい一夏の思い出を経験した事があるかの様な気分になれる」とつぶやいていて、まさに!と思った。
そうそう、それだ、それ。
おっさんからすれば、そんな甘酸っぱい夏のあの頃に、ネジまいて戻してくれるかの気分になれる。
で、その意味でもこのCHUNK! NO, CAPTAIN CHUNK!の一枚も、そんな2021年の夏の「そこそこイケてて、甘酸っぱい一夏の思い出を経験した事があるかの様な気分になれる」一枚になるんじゃないでしょうか。みんなー。
サックスの音色一発で世界の全てが、さあーっっと色めき塗り変えられるような、そんな甘酸っぱいサマーオブ2021をちゃんと送っているかい!?
(いねーよ酔いどれて部屋で寝っ転がってるよ)
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- アーティスト名:CHUNK!NO,CAPTAIN CHUNK!
- 出身:US
- 作品名:「Gone Are The Good Days」
- リリース:2021年
- ジャンル:EASY CORE、POP PUNK他