TIMES OF GRACE/「Songs Of Loss And Separation」:78p
KILLSWITCH ANGAGEのアダム・デュトキエヴィッチ(G)が、その初代ヴォーカリストであるジェシー・リーチと一緒にアルバムを制作する。
そんな話を目にしたのは、何ヶ月か前のことだ。
ほう、それは興味をひかれるぞ。
KsEの音楽性を支えるアダムと、初期のフロントマンであり嘗てのバンドの声を支えていたジェシーのタッグ、かあ。
つい、往年のコンビネーションを期待してしまう。
尤も、その時のぼくは知らなかったのだが、なんでもこのプロジェクトユニット自体は既に10年も前から存在していて、今回はその久々のアルバムなのだという。
いやはや、無知ですまん。
ちなみにここでのドラマーはENVY ON THE COASTのダン・グルシャクがつとめている。
さて、かくして届いた新作、十年を経ての2ndアルバムが、これである。
早速ながら、向かってみた。
まず1曲目、”The Burden Of Belief”。
アルバムはその、アダムのメランコリックなギターに導かれるように、静かに、そして厳かに、ゆったりと幕を開ける。
やがて入るエモーショナルなジェシーの歌は、どこか寂寥とした大陸らしいアーシーな情景を描く。
そしてスローにゆっくりと、じくじくと籠るように高まった熱感を、ゆったりしたグルーヴのアメリカン・ロック・ナンバーで受け継ぎ砂埃にまみらせていくかの、#2″Mend You“に…。
…ってメタルコアじゃねー!
メタルコアじゃないのかよ。
そうなのだ。
メタルコアじゃないのだ。
かつてのメタルコア時代の寵児たるこの二人の共演ながらも、メタルコアじゃないのだ。
だから疾走しないのだ。モッシュしないのだ。ブレイクダウンしないのだ。
どころかあのかつてのメロディックな浮遊感や開放感すら、ここにはない。
寧ろそのヘヴィネスは、沈みゆき、塞ぎゆき、淀みゆくがためにズシリと全身に重しをかけてくる。
一瞬、マジでアルバム間違えたかと戸惑ったが、しかしその力強く悲壮な咆哮も歌も、紛れなくジェシーのそれでしかない。
そう、
そこでは確かにジェシーは咆哮もしているし、ギターもビートもヘヴィだし、時にアップテンポな曲もこなしている。
だが、そうではあってもそれはやはり、メタルコアじゃない。
ただし。
代わりにその歌は、その轟音は、走らぬかわりに情念を炙り、焼き焦がす。
静と動とに悲哀をくべながら、めらめらとあがる黒いほむら。
それらは確かにメタリックだし、重くもあるし、激しくもある。
だがその激しさは、より内省的で、さながら自らを刺すような明らかに別質のインテンシティだ。
そしてその、暗みを帯びた色彩こそが、このアルバムの真骨頂であるのだろう。
恐らくはそのプロジェクト名の由来として想像させられる、「Times Of Grace」期のNEUROSISのように…。
ポストロック、ポストメタル。
それらの手法を用いて作られた彼等のサウンドは、メタルコアではないけれど、しかしかつてのキルズ同様に激情を迸らせながら詩的な世界観を歌いあげている。
但し、かつてのように外に向かうのではなく、内に向けて熱を吐きながら。
「喪失と、離別の、歌々」。
そのタイトルも、その様子を、方向性を、世界観を物語るかのようだ。
しかし、ふと。
ほんの時折、そんな荒涼とした大地に光明が刺すときがある。
希望が、照らされるときが、稀ではあるけれど、ほっ、と明るさを見せるときがある。
その刹那に、ああ彼等なのだな。
そう思わせるスパイスを仕込んでいるのが、なんとも憎らしい。
成る程、
最初は少しばかり驚きはしたけれど、これはこれで聴きごたえがある。
これはこれでバンドでは出来ないことだし、また何よりも情動のメタルを作ってきた彼等の、また違う姿であると納得も出来るものだ。
メタルコアじゃないけれど。
そのロックは、ヘヴィなメタルは、やはり紛れもなくアダムとジェシーの手によるものである。
★追記(2021年07月31日)
「今週のチェック」から引用。
KILLSWITCH ENGAGEの中心柱、アダム・デュトキエヴィッチ(G)が初代ヴォーカリストジェシー・リーチと組んでのプロジェクト・ユニット、第二作目。
てこれ二作目なのか!と思い調べてみると、十年前の2011年に1stアルバム「The Hymn Of A Broken Man」を出していることを知る。
というわけで、早速ながらこちらもチェック。
こーいうときホント便利よね、Spotifyって。
へー、どれどれ…。ってメタルコアだったー!
メタルコアだったのかよ。尤もアルバムK自体は楽曲レンジの広い作りで、このようなメタルコア・チューンばかりではない。
確かにこの2ndアルバムに続くような要素や片鱗も、この1st期から既に見られている。とはいえ、ここから十年の年月ですからね。
大胆にポストメタルへと大きく踏み込んでみせたこの判断は正しかったかと、ぼくは思います。
本家から距離のある音楽やるのもこういう別働隊の楽しみだし、何よりも1stよりも作品性として高まっている。レビューで触れたり貼った曲もいいけれど、ずしりと重いリフをジェシーのたくましく力強い歌とじっくり重ねタイトルどおり煉獄に沈ませ込むかのM4″Far From Heavenless“とか、マジカルな妖しさに揺らめくMVカットチューンのM6”Medusa“(↓)あたりも十分魅力的だ。
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- アーティスト名:TIME OF GRACE
- 出身:US
- 作品名:「Songs Of Loss And Separation」
- リリース:2021年
- ALTERNATIVE、POST METAL、POST HARDCORE、他