あのARTILLERY、の三十年先〜ARTILLERY/「X」:76p

アルバムレビュー
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ARTILLERY/「X」:76p

あのARTILLERYが、いつの間にかひっそりと新作を出していた。

「あの」って「どの」?
そう思うかもしれないが、ここで言っている「あの」とは「あのBy Inheritance」の、「あの」である。

80年代初頭には、すでに自国デンマークにて活動を開始していた彼等。
その後2作のアルバムを経た1990年、3rdフルレンスとして出されるとともに彼らの名を押し広めることとなった一枚が、この「By Inheritance」であった。

クランチィな攻撃性にダークトーンのギターメロを多彩に塗しながら、しかも時にはアラビアンというかエスニックな音階まで色付けつつ、細やか且つシャープに駆け巡る。
そんな一風変わったメロディック・ユーロ・スラッシュメタルの隠れ名盤として、かつてこのアルバムはスラッシャー達に伝えられたものだ。

そんな彼らも、そこからの解散、そして再結成を経て、紆余曲折。
更に作品を作り続けて、遂にこれで十作目を数えるという。

しかも実は彼らは、前作後にギタリストのモルテン・スタッツァーが急死してしまうという不幸に襲われている。
ましてやベースのミカエルは長年活動を共にしていたその実兄であるからして、その悲しみも殊更深かろう。

しかし彼等は早々に、それでも更に歩を進めることを決意。
かくして新たにギタリスト、クレーン・メイヤーを迎えて作られたのがこのアルバム、というわけだ。

「あのBy Inheritance」から三十余年、だ。

そりゃ勿論年月相応の変化やアップデートはされているし、モダナイズもパワーメタリック化も少しばかりはしたかもしれない。
がしかし、かといってそのサウンドが見違える程変わり果てたか、と言われるとそこまででもない。
よってここにあるものは、三十年分のメンバーの変更や演奏力の熟練化、洗練と成熟などを加えた、「あのARTILLERY」の現状だ。

ではその「現状」とは、実のところ如何程のものなのか。

ズバリ、言う。
というか、毎回毎回いつも同じだから、先に言う。

本作の、というか彼等の良いところは、いつも次の三点だ。

まず、ベテランの達者さに支えられた、オヤジスラッシュらしいガツガツしたキレの良さ。
そして、「あのARTILLERY」らしい、メロディックさ。
更には、「あのARTILLERY」が未だオハコな、エスニック音階。

一方で本作の、というか彼等のダメなところは、いつも次の三点だ。

まず、ヴォーカルの致命的なカッコ悪さ。
そして、メロディックだからといって決して楽曲が良い訳では全くないという、コンポーズセンスのなさ。
更には、それが故に生じる中盤以降の、ダレ。

然るにこのところ彼等が作品毎に果たしてきたのは、これらのプラスとマイナスの調整だ、そう言っても過言じゃない。
当然今回も、それらの最適解を求めながら「前よりはいくぼかマシ」に向かって着地しており、やはりその印象はそう大きくは変わらない。

つまりは十作目というこれもいつもの、ちょいマシARTILLERY
音楽性の差異は多少あれども、やってることの本質は、いつもその「良し」と「悪し」の盛り付け直しその十(=「X」)、だ。

鋭利でカッコいいけど、メロディックだけど、あんま面白くない。

あんま面白くないんだけど、メロディックで、鋭利でカッコいい。

そのどっちか、ないしは両方を、彼等は「あのARTILLERY」の三十年先へとまたもや着地を繰り返している。
この十回目も、性懲り無く。

しかし。
それでも、彼等はやるのだろう。
それでも、彼等は続けるのだろう。
彼等が信ずるスラッシュメタルの御魂の元に(=#2″In Thrash We Trust“)、それでもなお。
弟を失って、ギタリストを失って、しかしバンドを続けるという彼等は、それでも「あのARTILLERY」の三十年先を、同じように歩み続けるのだろう。

そういうバンドを、そういう彼等を、ぼくはそれ程嫌いじゃない。

 

★追記(2021年07月23日)
「今週のチェック」から引用。

あれー、そういや俺2年前に前作のレビューというか感想をFacebookに書いたっけ、てか何書いたんだっけとさっき漁ってみたら、↓こんな感じだった。

★ARTILLERY / Face Of Fear

けたましき突貫ツービートによる、押せ押せの作風。
そこにおっさんGコンビが、まだ若い衆には負けられぬとばかりにガリガリと、ツインギターでつんざき斬り込んでいく。
当然、加齢スメルは濃厚なのだが、しかしまだ老け込んではいないし、錆びついてもいない。

よってそんなスラッシィな激性要素に何ら不満もないのだが、しかし問題は残り成分三割程度を占めている、クリーンなハイトーン歌い上げ系Voを筆頭としたメロディック面だ。
これが悪い意味でダサいわカッコ悪いわつまんねーわで、マイナスにしか起因しないから困り者。

それが未だに治りゃしないんだから最早これってセンス問題なんだろうけど、しかしその高い実力に対して勿体ないねえ…。

で、これがまんま、この新作にも使えるっていうね。
同じこと書いている、っていうね。

いやわかる。
それでもね、改善はされてるんだわ、少しづつだけど。
レビューに書いた通り、「前よりはいくぼかマシ」をアルバム毎に目指しながら進む、ちょいマシARTILLERY

なのでこの評点には、そんな頑張りと、兄弟なくしても進んでいる応援したくなる姿勢、曲名に”In Thrash We Trust“とかやってくれちゃう心意気、それからかれこれ30年以上の付き合いなどが加算されているのを正直に認めます。

だってなあ、MV曲が(↓)これだろ?
大体ギターでスクラッチとか、そういう痛ましい「今これかな」やんの、おっさんはいらんのや…。

DATE
    • アーティスト名:ARTILLERY
    • 出身:デンマーク
    • 作品名:「X」
    • リリース:2021年
    • THRASH METAL、POWER METAL/SPEED METAL、HEAVY METAL他
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