WHITE LUNG/「Premonition」:75p
カナダのガールパンク・トリオ(1人おっさん含む)、本作にて5作目にして、これが最終作だという。
初期の頃はもっと、観客に血まみれのタンポン叩き投げつけてた頃のL7にサイコギター加えてBAD RELIGIONメロで高速ビキニキらせたようなドヤンチャ・ライオットガール・パンクだった彼女らだったが、やがて男性ギタリストのケネス・ウィリアムが加わっていく中でメタル色やオルタナ色も混入。
2016年の前4th「Paradise」にて一躍その名を高めるも、しかしその後、フロントウーマンであるシンガーのミッシュ・バーバーウェイが子を産む機会などもあって、バンドの活動が停滞。
そのうち名も聞かなくなり…とほぼ活動停止の状況の中から紆余曲折で出したのが本ラスト・アルバムだ。
よってその通りに本作リリース間もなくにてバンドも解散、なのだがしかし。
色々と言われることも判らなくもないけれど、それでもこと音楽作品としては寧ろ今までで一番の仕上がりなのではないかとすら思うほどなアルバムだ。
相変わらずバドレリみたいな苦味の効いた哀愁メロを躍動的に疾駆しながらも、一方でケネスによるギターリフはメタリックな鋭さを増量して細やかに入り組み、さながらゼロ年代のニュースクールのような切れ味を強化。
しかも同時にニューウェイヴ、ゴシックのような黒ずんだ妖艶さや、シューゲイザーのような幻想美をも纏うようになっているのも印象的だ。
オープナーののっけからそれを伝えるM1“Hysteric”やM2“Date Night”などは、まさにしかり。
このギターが今回また実にいい仕事を要所でしており、M8“Bird”でのプレイなど各曲で耳を捉えるキーとなっている。
そして何よりも、ミッシュ(Vo)が妊娠と出産の経験を経たこともあって、歌詞テーマが従来までの社会への怒りなどでなくなり、もっとパーソナルな母親目線となっているのも大きな変化要因なのだろう。
ちゃんと歌詞を追ってないのでよくわからんのだが、何でも本作はそれを受けての「誕生と再生」を扱ったものらしく、某ピッチフォーキーな海外サイトによれば「これまで激烈な怒りに満ちたアルバムを4枚出してきたパンクス達の今回のアルバムテーマは、30代のインスタグラムによく見られるように、赤ちゃんだ」
結果、空間にきらめくようなメロディックさをたたえたM4“Under Glass”などに見えるよう、これまでマイクにツバ飛ばし叫んでいた彼女のヴォーカルスタイルも、母性に通じる柔らかさでメロディを丁寧に追うようなものとなっているのもその現れかと。
その結果、アルバムの色彩もこれまでのような荒々しい攻撃性や刺々しさよりも、寧ろ成熟とともに音楽作品としての完成度が増してきており、それをどう評価するかでその見方も変わってくるかの作りになっている。
よってパンクバンドとして魅力が損なわれた、という意見も大きくあるだろうし、しかしその分だけ深みと味わいがある、とも捉えられる作風だ。
尤もぼく自身は正直、そこまで初期に思い入れもない上、さほど大きな変わりもそこまで感じもしなかったクチ。
しかも例えばM6“If You’re Gone”あたりに強く見られるような、これまで以上に冷たい黒みを帯びたメタリックなエッジィさは、メタラー的に悪くないとすらも思っているくらいだ。
いずれにせよ、このゼロ~テン年代を駆けたバンクーバーの元ガールパンクス達も、ガールどころかおばちゃんにおっさんも混じって、みんなすっかり大人になって、それぞれ家庭が出来て、子が出来て、家族が出来て、母となってで、これがパンク舞台の幕引きだという。
しかしそれでも彼らはやっぱりこれまで同様、素直に現状のおっさんおばはんの身の丈の思いをうそぶくことなくぶつけながらアルバム一作30分を切る潔さで走り抜けてみせ、そしてその勢いのままにおセンチな感傷に浸らすことなくラストのラストの終止符、M10“Winter”で激情を叩きつけ、そして颯爽とステージを降りていく。
そんなさまに、ふとパンクバンドとして生きた最後に示した彼らの美学を見た思いがする、かな。
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- アーティスト名:WHITE LUNG
- 出身:カナダ
- 作品名:「Premonition」
- リリース:2022年
- ジャンル:PUNK ROCK、