JINJER/「Wallflowers」:72p
政情の不安を未だに想像せざるをえない東欧諸国であるが、それでもこのグローバル化などとともに、少しずつロックバンドの存在が聞こえてくるようになってきた。
そんな昨今ではあるが、こうしたバンドが閉塞的な自国を飛び出して外に活動を向け、しかも近年には来日公演まで果たし、そしてここにニューアルバムを出してきているという事実には、やはりもって少しばかり驚かされる。
ウクライナ。
ロシア西方に面した、黒海沿いの大きな農業国だ。
しかし国内は大きく二部しており、ポーランドやルーマニアなどEU側な欧米寄りの西側農村部と、経済圏の都市部ではあるものの民族的・宗教的にも古くからロシアに寄った東部・南部とで文化の違いすらあるのだという。
特にロシアと距離的にも近いクリミア半島を含む東側はロシア需要による工業化、近代化が進んでおり、それもあってかロシアとの結びつきがことさらに強いとされている。
さて、そのロシアと国境で接しているのがドネツク地方、つまりはこのバンドの出身地である。
しかもそんな彼の地から、現代欧米の影響をもろかぶりしたようなメタルコアバンドが飛び出して世界に活動を向けるようになっているのだから、時代というのは動いているのだなあ、とまるでジジイのようなため息を漏らさずにいられない。
プログレッシヴ・メタルコア。
まあ音楽性として、一応はそう言っておこう。
インストパートとグロウルヴォーカルで刺々しいアグレッションを繰りながら、カオティックハードコアに近いような込み入った展開を果たしつつ、頃合いを見計らって程よく女性シンガーがそこに歌メロを打ち込む。
と、そう言うと一般的に思いに浮かぶであろう欧米バンドの「それ」を、もう少し野暮ったく粗野にしつつ、しかしそのぶんだけギラついた切れ味とパッションの先走りを加味。
つまり、いかにも田舎もんらしいトガリよう、こっから抜け出てやるんだというギラッギラに脂ぎったテンションでもって、そんなテンプレを仕立てたようなサウンドが、ここにはある。
いや、前に比べればそれだってかなり洗練はされてきてはいるのだ。
それは判る。それは知っている。
だけど、こういうバンドが洗練されりゃそれでいいって話ではないわけで、その挙げ句に凡庸化し、魅力を損ねればハイそこまでだ。
そういう意味では、本作らへんがいい落としどころというもの。
しっかり4作目にして世界にアピール出来る存在感と、ほどよいアクと垢を残して、美味しいところを出してきた。
本作はさながら、そんな印象だ。
勿論、マイナス面なんて論えばいくらでもある。
まずこれまで同様なのだが、曲が、恐ろしくつまんない。
と同時にそれも併せてなのだが、彼らならではの「これ!」という個性が、ウクライナという出自ネタ以外に見られない。
つまりは、「嗚呼、ウクライナのメタルか。じゃ、しゃーねーか」が結構な免罪符として、色々と覆い隠しているのが否めない。
それと、曲が、どうにもつまんない。
加えて、折角の女性ヴォーカルの活かし方が全くなっていない。
これ、もう少しどうにかならなかったのだろうか、折角の彼らならではの持ち味を生かし切れていないのは、いかんともしがたい。
それから。
実のところこれが何よりも最も大きな問題であり、このアルバムにして最大の欠点なのだが、致命的に曲が、クソつまんない。
などなど。
そういうマイナスがあるのも知ってはいるけれど、特に曲が本当につまんねーんだけど、でもいいじゃないか。
大体ぼくは結構好きなんだよ、そういうくすぶった田舎モンが抱えている、死んでも火種を消してやるもんかという身を切るように鋭いギラつきが。
ウクライナというメタル世界のど田舎、しかもロシアにかこまれた工業都市で、ガリゴリの欧米メタルを見よう見まねで練り上げて、これで一旗あげてやるんだ、こっちゃ負けられねーんだという鮮烈な尖りようが。
つまりは、「YAZAWA」なメタルが。
そんなわけで、ちょっと面白い存在かもということで、初手だし、ウクライナだし、ギラついた田舎もんだし「YAZAWA」だしで、少々くらいは大目に見てあげようかなと、ぼくは今ちょっとばかり心を許してしまったところだ。
ま、それでも曲は全っ然、面白くねーんだけどな!
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