MORDREDという微妙さ~MORDRED/「The Dark Parade」:68p

アルバムレビュー
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MORDRED/「The Dark Parade」:68p

MORDRED
かつての彼等の、その特殊というか独特な存在感を、この現代に一体どう伝えればいいのだろう。

何せ、スラッシュ・バンドに、黒人のDJ担当が在籍していたのだ。
…とそう言うと、今の若い子らならば、ふーんって感じに思うことだろう。
いやだってSLIPKNOTだってLINKN PARKだっていたじゃん、とかね。

そういう意味じゃ、ないのだ。
そういう時代じゃ、なかったのだ。

しかも、じゃあそんな斬新でクールで立派な先駆者だったのか。
そう言われると、「うーん…」と眉をしかめて腕組みして、黙ってしまう。
「いや、何ていうのか…だからといって、そういうんでもねーんだよなぁ」と、苦笑いすらしてしまう。
その、独自の立ち位置、なんとも言えないポジショニング。うまく説明が難しいキャラクター。
つまりはそんな「MORDREDの微妙さ」を、この現代にどううまく伝えればいいのだろう。

少しだけ昔話をするとしよう。

80年代後半、かつてスラッシュメタルが、オルタナティヴ・ロックに接近していた時代があった。

当時のオルタナティヴ・ロックはまだ原初的なもので、ファンク音楽やHIP HOPを当代的なハードロックで解釈したようなことを試したり、白人黒人の垣根を破壊しようという動きが主流だった。
RED HOT CHILI PEPPERSFAITH NO MORE、黒人メタルバンドLIVING COLOURJANE’S ADDICTION…。
それらがやがて90年代のミクスチャーの本流に向かっていくのだが、それは今回は置いておくとしよう。

さて「トンガったロック」だったオルタナティヴ・ロックが、「激しいストリートのクールなメタル」であるスラッシュメタルにシンパシーを感じたように、スラッシュメタル側からもそんな原初的ミクスチャー、オルタナティヴ・ロック、あるいはその先のHIP HOPに共振し、歩みを進めるバンドが自然と出てくるようになる。

その結果、ファンクビートをスラッシュメタルに取り込むバンドが出てきたのだ。
DEATH ANGELはその筆頭だろう。
以降、スラッシュメタルのファンク化がトレンド現象のようになっていくのだが、しかし。
それらの中から、より大胆に、より前衛的にそこに踏み込み、当代的スラッシュメタル流のミクスチャー表現をするバンドが登場する。

そう、
長くなってしまったが、ここでようやくその名が出てくるのが、このMORDREDだ。

実は結成当初のMORDREDは、もっとクランチィなスラッシュ・スタイルだった。
しかしそこから更に進化を果たした彼等は、ファンクネスとともにHIP HOP要素をも大胆導入。
デビューアルバムでかのMCハマーの代表曲”U Can’t Touch This”で知られるRICK JANESの”Super Freak“をカヴァーしていたことも、当時の彼等の姿勢を象徴していよう。

さながらそれは、メタル側からのミクスチャーへのアンサーであり、視点を変えればメタル畑の元祖本格ミクスチャー、それがMORDREDだったのだ。
結果、スラッシュ・バンド、いや少なくとも真っ当に活動が認知されていたレベルのシーン内で、初のDJ入りメタルバンド、となるのであった。

…と、ここまで語るとMORDREDの先鋭さ「だけ」が伝わることだろう。
しかし冒頭にも触れた通り、じゃあMORDREDはそんな先見のクールなバンドだったのか、そう問われると、「うーん…」と腕組みして苦笑してしまう。
「そういうんでもねーんだよなぁ」と傾げてしまう。
それが、「MORDREDの微妙さ」なのだ。

歯がゆいことに、ぼくにはそのニュアンスの「微妙さ」を、つまりは「MORDREDの微妙さ」をうまいこと言語化して諸君らに伝えられない。
だから代わりに、このアルバムを聴いてほしい。

そんなわけで、やっと至れた本作だ。
いきなりのリリースに腰を抜かしたが、MORDREDなんと27年ぶりのニューアルバムであるという。
ジャケでピエロが抱えているのは、そう、あの1st「Fool’s Game」の変態おっさん仮面だ。
この言ってみればしょうもない変態おっさん仮面をアイコンとするあたりにも、こいつらの「微妙さ」がにじみ出ている。

しかも凄いことに、どうやらなんと、メンバーがほぼ変わっていない。
つまり結構いい年くったおっさん連中がまた集まって、あの「微妙」なMORDREDを再建しようとしている。

そしてそれもあるのだろう、驚くのは、その音楽性だ。
かつての元祖ミクスチャーMORDREDの、あのまんま。
つまり、ラウドロックも、ラップメタルも通過していない、あの頃のままのMORDREDがここにある。

では、それは果たして如何程のものなのか。
さあ、どうぞ「MORDREDの微妙さ」を、とくと体感して欲しい。

躍動するビートを飾る、へろへろと妙に揺れるだけで別にフックを感じないメロ。
不安定にふらつく、奇妙なだけの酔っ払いみたいなヴォーカル。
途中途中に入る「これって必要なのか?」といった感じの、取ってつけたスクラッチ。
へんてこなのは判るけれど、それがどうしたというギターソロ。
とりとめのない曲調に、そう面白くない楽曲群…。

見よ、この「微妙さ」を。
なんという、圧倒的な「微妙さ」か。
どうだ、これがMORDREDだ。
あなたが今噛み締めている、その不思議な感覚。
そう、それだ。
あなたの胸を今支配しているであろう、その「うーん…」こそが、「MORDREDの微妙さ」なのだ。

まったく、さすがはMORDREDだ。
この時代に甦って、この20年代にまたもう一度あの時代の「MORDREDの微妙さ」をわざわざ律儀にも伝えにくるとは。
呆れて腕組みしながら「うーん…」とまた苦笑してしまう。

でも、そういうバンドなのだ。
そういうバンドだったのだ。
そもそもからして「格好いい」のではなく、単に「変わってる」だったのだ。
そもそもからして変わった連中だったのだ、だからあんな先駆的なことをしていたのだ。
そしてその変わりものが、そのまま変わらず変わりもので年を食ったから、そして当時いくらかはあった「格好良さ」を加齢で損ねた結果「変わってる」だけが残されて、で今こうなっているのだ。
そりゃあ微妙なはずである。

どうだろう、諸君。
少しはその「MORDREDの微妙さ」が。
MORDREDに対する「そういうんでもねーんだよなあ」が。
ぼくらの「うーん…」が、腕組みしながらのその苦笑が、今この時代にも伝えられたら幸いだ。

DATE
    • アーティスト名:MORDRED
    • 出身:US
    • 作品名:「The Ark Parade」
    • リリース:2021年
    • ジャンル:THRASH METAL、MIXTURE、他
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