THE DAMNED THINGS /「High Crimes」(2019)
おっさんになると、人は大概、ダサくなる。
そう、おっさんは何故ダサいのか問題。
僕自身を省みながら怖々と答えれば、やっぱりそれはトレンドへの感性の更新がされなくなり、価値観が固まるからだろう。
だからおっさんは時代遅れの服を、未だにオシャレなものだと思って着続け、そしてよりダサくなっていく。
勿論、感性なんて更新する必要がなくなる、という面だってある。
諦めだけじゃない。
おっさん上等、ダサくて上等。そもそも自分たる存在が確立されれば、そんなものは必要ない。そういう考え方もあるし、それはそれで全然いいと思う。
でも感性の鋭い人というのは、おっさんでもやはり更新を忘れないし、そういうおっさんは例えおっさんでも尚かっこいい。それもまた確かな事実だ。
そんな感性を鈍らせず、価値観を固まらせず、かっこいいおっさんを僕自身も目指しているから、…という明確で意識的な理由ではないけれど、未だに服好きであり続け、また新しい音楽にも興味を向けるようにしている。
でもね、つい油断して怠けると、すぐにダサくなる。固まっちゃう。
それがおっさんの悲しさだ。
さて。
スラッシュ四天王の一角、ANTHRAX。
やつは四天王でも最弱、だのとナメているアホも少なくなさそうだが、では彼等がそもそも四天王において何に秀でていたのだろうか。
それは、いかにもニューヨークという都会モノならではの柔軟性とストリートライクなアンテナセンスであった。
ここで、少しばかり昔話をさせてもらおう。
90年代初頭。グランジ、NIRVANAとはある種いきなり投げられたテロ爆弾であり、LAメタルの次はスラッシュメタルとオルタナティヴだと、皆が疑わない時代があった。
かつてスラッシュメタルはオルタナティヴと完全に隣接、いや地続きだったし、ストリートの感性を存分に吸収した尖ったオシャレなインディーロックだった。
無論そんなシーンを牽引していたのはMETALLICAだったし、一方のアングラのカリスマにはSLAYERがいたものだが、しかしその尖ったセンスを真っ先に掲げてラディカルに先頭をひた走っていたのは、他でもなくANTHRAXだった。
中でもその高感度のアンテナの持ち主がギタリスト、スコット・イアンであり、STUSSYを着てニット帽を被り、VANSを履いてギターをかきならしていた彼は、間違いなくオシャレだったしかっこよかった。
(大体、初期の彼等の音楽的基軸、「ニューヨークハードコア×IRON MAIDEN」というずば抜けたセンスは、ライブハウスに浸りつつ、海の向こうのイギリスの音楽にもアンテナを鋭く向けていたNWOBHMキッズのスコットのものだったはずだ)
おっと昔話はこの辺にして、現在に戻ろう。
カオティックな激烈メタルコアを標榜するEVERYTIME I DIE。
エモいポップロックを身上としているFALL OUT BOY。
メロディックだが硬派なパンクス、ALKALINE TRIO。
それらの個性的な面子で結成されたプロジェクトユニットで、一人平均年齢を高めているのがスコットかの御仁である。
トンガった現在のロック後輩の中で、一人気張っている齢五十を越えたオールドスクールスラッシュオヤジ。それが彼のここでの立ち位置だ。
当然求められるのは、ベテランとしての経験値のみならず、若手達に合わせた柔らかな感性とバランス感覚であり、また彼等の持ち味を受け止められる器量だろう。
実際、ここにおいて彼は自身のバンドの音楽性を前面化させず、寧ろ後輩らの音楽感性を活かす超脇役に勤めている。
言わずに聞けば、ここに弾いているのがスコットだと気付かないくらいだ。
若者達に混じって、タメに感性を働かせることの出来るオヤジ。
メタル界でこれが出来るような感性の鋭いオシャレオヤジは、彼以外一人もおるまい。
事実、四天王にもいないし、実は下手すればANTHRAX内にも彼以外、いない。
じゃあ他のオヤジがやれば、どうなるか。
MEGADETHのエレフソンとANTHRAXのフランク・ベロのプロジェクトがこないだ見せた「更新をやめたおっさんがかっこいいと未だに思っているオルタナティヴ」の痛々しさがいい例だ。
そう、これが痛々しくなく出来るおっさんは、スコットただ一人だけ。
そこにスコットの、ANTHRAXの凄さも実はあるのだが、悲しいかなおっさんはすぐダサくなる。
今のANTHRAXの痛々しさがいい例だ。
感性は、磨かずに更新しないとすぐさび付いていき、鈍っていき、ダサくなる。
仮に更新しようとしても、既にそのアンテナ自体がさび付いていたり、はたまたトレンド自体もおっさんには似合わなかったりして、そしてすぐにダサくなる。
かっこいいオシャレなおっさんになる難しさは、ここにある。
もしかしたら言葉ではわからないかもしれないが、しかしおっさんになれば皆、良くも悪くも誰しもがもれなくこのことを、身をもってリアルに知ることになるだろう。
そして皆、それを知りながらもつい油断して怠けて、すぐにダサくなり、固まっていく。
だからおっさんになると、人は大概、ダサくなるのだ。