狂性と知性と暴力性 ~DESTRUCTION/ 「Born To Perish」(85点/100)

アルバムレビュー
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世紀末を疾駆した異形の破壊者

DESTRUCTION/ 「Born To Perish」(2019)

思えば、「Release from Agony」(1987年)は、実は彼等にとって特異なアルバムだった。
トリオ編成が基本体勢であるこのバンドにツインギターを加えたことで、表現力とそのレンジが大きく上昇。
反面、衝動的なスピードとアグレッション値は減ったものの、しかし退廃の闇と美を浮き彫りにさせたかのサウンドは狂気と知性を溢れさせ、多くのスラッシャーを魅了した。
曰く、「詩的なまでにドラマティック」。
曰く、「これぞ世紀末へ疾駆するロックだ」。
そんな誉れとともに、彼等はこの傑作によってMEGADETHを向こうに見据えながら欧州型インテレクチュアル・スラッシュの金字塔を打ち建ててみせたものだ。

さて、テン年代も終わろうとしている今、あの歴史的名盤から年を重ねること三十と余年。
そんな異形の世紀末破壊者が、なんと再びツインギター体勢で製作したアルバムを出すというのだから、そりゃ古くからのファンとしちゃ少なからず感慨を覚えやまないというものだ。
とはいえSchmier復活以降の彼等は、トリオ編成らしい爆裂怒涛な即効性×直情激烈作風を志向しながら、ゼロ年代以降数々の良作を生み出してきた。
果て、今回の試みや如何に。

元ANNIHILATOR、PRIMAL FEARのRandyBlack(ds)と、これまでもゲストでサポートしてきたDamia(g)。
その二人を加えて作られた本作は、やはりこれまでよりネジれ込みの多い、演奏構築型で刺々しく精緻な多展開テクニカルスラッシュを標榜している。
もう少し正確に言及しておくなら、このところのストレートスラッシュ路線をベースに構えながらも、より細やかなギターワークを増すことによって表現レンジ、楽曲の幅を広げているわけだが、しかし。そりゃ既に経験則的にもこの面子でそれを踏まえれば、作風だって自ずとそうなるわけで。
即ち、「Release from Agony」。
その存在がここにおいて彼等の念頭に少なからずあったことは、否定しえないだろう。
ツインリードで複雑に組み上げるリフとソロの整合感と先鋭性が、それを伝えて狂おしく駆けめぐる。
不協和音に踊る、妖気。
目まぐるしく交錯する、漆黒の殺気。
そんな嘗ての「詩的なドラマ」を、彼等は世紀末を越えてこの新世紀に再び紡ごうとしている。
ただし、往年の作風にただ寄せ戻るのではなく、今様にアップデートしながら、現状での彼等らしさを置き去ることなく、だ。
それを見るに、このところの作品を遙かに陵駕している禍々しいまでの狂気の濃厚さと、細やかに編まれる切れ味鋭い鋭角さは、その実かの連中の忘れちゃいけない魅力であることを改めて知らされよう。

…と、ここまでは讃辞を並べ綴ってきたのだが、ぶっちゃけ、不満が全くないわけではない。
まず、楽曲の弱さ。インパクトの少なさ。
それを複雑緻密化した作風のせいに言い訳付ける以前に、にしては際だっていた邪気が薄口になってしまっていることを問いただしたい。
敢えて、恐れずに言わせてもらう。要するに、この路線をやるにしては、トンガリ具合が「ヌルくなった」。
何より歯がゆいのが、実はこのことだ。
勿論、時流や衰えを三十年前に比べるものでなかろうし、その分増した円熟味や安定感を鑑みれば、これでも十分に及第点たるもの。
そしてやはり、彼等は彼等であり、あのDESTRUCTION、である。
最早「詩的なまでにドラマティック」ではなくなったかもしれないが、しかしやはり彼等はそれでも今なお「新世紀を疾駆するロック」を、スラッシュメタルを奏でている。
故にこそ、少なくともこれだけは言えるはずだ。
狂性と、知性と、暴力性。
それらをリフの斬刃にのせ、嘗て世紀末を疾駆し我々を魅了してきた異形の破壊者の何たるかが、ここにある、と。
ただその事実性だけは、その魅力の本質性だけは、ここに全く揺らいでいない。

なお、ボーナストラック#11は、今や黒歴史(だが実際は最高だった)「Cracked Brain」の”My Sharona”を彷彿させる名カバー。
そう、これもまた彼等なのだ。

DATE
  • アーティスト名:DESTRUCTION
  • 出身:ドイツ
  • 作品名:「Born To Peris」
  • リリース:2019年
  • THRASH METAL他
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