「ん?」
DEATH ANGEL /「Humanicide」(2019)
その昔、DEATH ANGELというバンドは、スラッシュメタル第一線組の中でもかなりトンガった存在だった。
やはりメンバーが皆若かったし、それ故かセンスがオシャレだった。
何せMETALLICAのkirk hammettに見初められてデビューを果たした時は、メンバー全員十代、ドラマーに至っては驚きの弱冠14歳だったから何を況や。
して出されたその1stアルバムは、ガリガリのスラッシュの中にRUSHからの影響を見せるもの。要は若造の背伸びをプログレッシヴなインテリジェントスラッシュに昇華させ「ようとしたもの」だったが、それもまたセンスだと十分頷けるものだった。
続いて彼等が目を向けたのは、ファンクビート。
彼等は2nd、そして3rdにおいて、それを大胆取り込んだファンクスラッシュを展開していく。
というのも、かの時代スラッシュメタルはそのラディカルさと先鋭性から、ハードコアとも繋がっていたし、そしてそこに惹かれて接触したミクスチャー(やがて統合されオルタナティヴとされていく)とも繋がっていた。というか、スラッシュメタルは身体半分、とまではいかずとも少なくともそのつま先程度はオルタナティヴの地を踏んでいたのだ。
そしてそこではファンクとの融合が盛んに進められており、例えば初期RED HOT CHILI PEPPERSなどはまさにその先頭にいた。(因みにRED HOT CHILI PEPPERSは、ハードコアあがりの連中のバンドだ)
要するに、スラッシュメタル界第一線における屈指の最ミクスチャー寄りバンド、それがDEATH ANGELだった。
いや、恐らく連中は嘗てトンガッていた音楽だったスラッシュメタルに対してもそうして手を付けてきたのだろうし、だから初期時代からハードコアも、ファンクも、アコースティックも、インテリジェントなアプローチも、そのアンテナに引っかかればすぐ「混ぜ」ていた。
それこそが彼等がトンガっていた最大の由縁であり、またこの「混ぜモノ」への独特なアンテナの感度と位置取りは、まさに彼等だけのものだったと、今も思う。
さてそれから、紆余曲折を経てウン十年。
そんな彼等が復活を果たし、今なおコンスタントに作品を出しているわけだが、その目下最新作がこのアルバムだ。
通算にして、9作目のスタジオ・フルレンスであるという、この本作。
成る程。良くも悪くも、デスエンである。
リユニオンしてからの彼等は、3rdで見せていたファンク要素を大きく除去し、彼等の根底たる往年のベイエリアスラッシュを基本路線として標榜しているのだが、しかし。
三つ子の魂何とやら、ついそこに何故か「混ぜモノ」をしたがるクセが、今だ脱けきれていない。
そこが、良くも悪くも、彼等らしい。
何かに手を付けて、混ぜる。混ぜたがる。混ぜようとせずにいられない。
但し、問題なのはその「混ぜモノ」が効を成すか徒となるかは、判らないことだ。
そもそも、「混ぜモノ」は、そのセレクトや取り扱いが難しいものである。
そして、既にあの鋭いアンテナに若々しかったバンドも、今やいいオッサン。
そして、大概オッサンの「混ぜモノ」感性というものは、結構”アレ”なものだ。
結果。
決してその骨子自体は悪くないのに、何故か「混ぜモノ」に「ん?」と思うことが多い作品が出来上がる。
「ん?」が増える。「ん?」が多い。
それが、良くも悪くも、今のオッサンのデスエンである。
製作陣営は裏方含めて、ほぼ同じ。
路線もさほど変わらない。
ただ少々、いや、かなりスラッシュメタルの純度が増している。…ような気がする。
いつもの、跳ねるリズム。
跳ねる、ヴォーカル。
跳ねる、メロディライン。
それらを束ねる統率の取れた熟練のプレイに、エッジィなサウンド。
オッサンスラッシュとしての出来としちゃ、決して悪いものじゃない。
楽曲レベルは随分と陰りや遜色が見えているものの、とはいえこのご時世衰え著しいベテランスラッシュ勢の作品としては及第点をクリアしたものだとも、確かに思う。
そして問題の「混ぜモノ」加減はといえば、今回は比較的、いや割と抑え気味だ。
だが、やっぱり、それでも時折浮かぶ、「ん?」の違和感。
ん?何このイントロ。
ん?何この展開。
ん?何このブルタリティ。
ん?何このメロディライン。
ん?何このピアノ。
ん?何このDEATH ANGEL。
ん?
ん?
んーーー?
やっぱり、「ん?」が増える。「ん?」が多い。
だがそれが、良くも悪くも、今のオッサンのデスエンなのだろう。
そういう意味では、やはりこれまで通りの、良くも悪くも「ん?」なDEATH ANGELがここにある。
- アーティスト名:DEATH ANGEL
- 出身:アメリカ
- 作品名:「Humancide」
- リリース:2019年
- THRASH METAL他