「本物」だという、ただそれだけの唯一無二性
SAINT VITUS / 「Saint Vitus」(2019)
ロックの、ヘヴィネス。それを遡れば、当然BLACK SABBATHという巨大な存在に自ずと向かわざるをえないだろう。
ドゥームメタルの元祖は、そのヘヴィネスの源流は、疑いも紛れもなくBLACK SABBATHである。
そりゃ勿論、「ロックのヘヴィネス史」という話をするなら、更にその先にBLUE CHEERやSTOOGES、MC5などの系脈が見えないわけではないし、突き詰めるならサバスの音楽的ルーツはブルーズロックなのだから、そこを辿ることだって出来るだろう。
(LED ZEPPELINの1stって実はかなりスロー&ドゥーミーだと僕は思っているのだけれど、それだって後期THE YARDBIRDSがその原型だ)
しかし一般的な意味においても、そのダイレクトな始祖にBLACK SABBATHを挙げないわけには、やはりどうしたっていくはずがない。
事実、彼等のデビューアルバム「BLACK SABBATH」は、まさにヘヴィメタルのヘヴィネスの、そしてハードコアの原点でもあっただろう。
さてその深黒なヘヴィネスの遺伝子はその後今に至るまで、それこそ無限なまでに広がり伝わっていくわけだが、ことドゥームメタルのルーツという視線からそれを眺めた場合。ドゥーム”メタル”とはいうものの、ヘヴィメタル史のみならず、というか寧ろパンク/ハードコアでの系譜こそを追う必要性が俄然高まってくるから面白い。
そしてこのSAINT VITUSは、まさにその中にて堂々本丸を座しているバンドなのである。
ここで少しばかり、そのハードコアにおけるドゥームメタルの血統を追ってみることにしよう。
尤もハードコア史を遡るというなら、例えばDISCHARGEに伺えるダークなどす黒さ。あれは紛れなくサバス縁のものであるし、実際彼等も重要な存在に違いないわけだが、それはほんの少しばかり置いておくとして。
やはり80年代ハードコア界におけるサバス・チルドレン~まさにChildren Of Grave(笑)~の筆頭と言ったら、BLACK FLAGかのバンドに違いない。
大体、70年代後期から既に結成していた彼等が最初に念頭に置いていたのが、BLACK SABBATH meets STOOGESだというから、何を況や。
いずれにせよ、ファストさに傾倒しがちだったハードコアシーンに、いち早くヘヴィネスの概念を取り込むことで別のアグレッションを発見したBLACK FLAGの功績は、ドゥームメタルのみならず大きな影響源となっていく。
そして、そのBLACK FLAGのグレッグ・ジン(g)がはじめたハードコア・レーベルからデビューし、より露骨かつ明確なアプローチで「重くて遅い」を特化、具体化させ、次世代へと継承させたのが、このSAINT VITUSである。
BLACK SABBATHが落とした暗黒種子を、ハードコア、特に先に挙げたDISCHARGEやBLACK FLAGらからの影響と、当代的なヘヴィメタルシーンとの接近によって育んだ彼等のサウンドは、しかし当時のハードコアシーンからも、またメタルからも若干距離のある、些か独自の位置を取っていた。
そのせいか当時は余り注目はされなかったものの、しかし今から思えばその孤高さ、異端性、パイオニアとしてのオリジナルさ。それらこそが、後続への多大な影響を作り上げていった要因だったのではないか。
そして、そんな彼等や、或いは彼等とは人的縁のあるTHE OBSESSEDなどが先陣となって開かれた「重くて遅い」ロックの門に、半ば共鳴するかのように様々なバンドが試みていくのだった。
中でもMELVINSはその旗手であり、彼等が広げた間口はオルタナティヴをも取り込んでいく。
更にはEYEHATEGODやNEUROSISなどがそれを追いながら、スラッジ・コアが生誕。
また一方の英国では、全く逆のアプローチでエクストリミティを求めるようになる先のDISCHARGEがいたし、そこから黒き因子を受け継ぎ芽吹いてみせたANTISECTやAMEBIXなども登場する。
かたやNWOBHMを経て禍々しさやおどろおどろしさの表現に長けていたメタルサイドからCELTIC FROST、CANDLEMASS。殊更シカゴの鬼っ子TROUBLEなどは、ドゥーム前夜の筆頭とも言うべき存在だ。
更にはノイズ/インダストリアルにはSWANSがいたし、おっと忘れてはいけない、古典的な英国ロックで脈々とマジカルな呪詛表現を標榜してきたPENTAGRAM…。
いずれも当時は皆、異端と扱われてきたバンド達だが、しかしそれらの先鋭なエキスを授乳し、配合と分離を進めながらやがてドゥームメタルが、そして現代に繋がる帝王CATHEDRALが産み落とされていくのである。
さあ、歴史話はこの辺にしておこう。
そんなドゥーム史のエポックメイカー、スラッジレジェンドSAINT VITUSによる再結成後2枚目のスタジオフルレンスが本作である。
前リユニオン作から7年ぶり、しかもヴォーカリストと一部布陣が変わっているのだが(オリジナルヴォーカリストのScott Reagersが復帰)、その程度で今更音楽性が揺らぐよしなど微塵もなし。
というか、デビュー期からやってることがほとんど変わっていないのが凄いし、そしてこのバンドらしい。
黒光りするヘヴィリフを打ち付けながら、痙攣するようなギターを轟かせ、ばらまかれる不穏と暗鬱。
根っこにハードコアがあるバーバリックかつラギッドなスラッジサウンドは、まさしく彼等のものだ。
意外と、こんなものかな。
セグメント化且つエクストリーム化が進んだ現代ドゥームに耳慣れた身からすれば、やもすれば本作を前にそんな声も出るのかもしれない。
その通りだ、意外か否かはさておき、「こんなもの」なのだ。
というか、「こんなもの」だからこそ、「本物」なのだ。
そして「こんなもの」を三十年以上も経った現代においてまだやろうとしているような連中だからこそ、あの時代に先駆者たる異端性を抱え得ていたのだ。
本作の評価軸は、その理解度にも関わろう。
ヘタウマ。
時代錯誤。
古臭い。
野暮ったい。
スカスカ。
現代的な重さに欠ける。
コケオドシ。
雰囲気モノ。
それがどうした。
これが本物だ、本物の元祖ドゥームメタルだ、本物の伝説の姿だ。
そう言い切り、先のような批判をぶった切り出来るだけの、圧倒的な存在感。
嗚呼、SAINT VITUSだね、本物だね。以上。これだけ。
その「これだけ」が許される、その凄さ。
「本物」という、ただそれだけの、しかしだからこそ唯一無二なる価値。
彼等の凄さは、このアルバムの凄さは、やはりそこにこそある。
そして思うに「本物」とは元来、そういうものだ。
- アーティスト名:SAINT VITUS
- 出身:アメリカ
- 作品名:「Saint Vitus」
- リリース:2019年
- DOOM,SLUDGE他