大人になった子供達 ~THE GET UP KIDS /「Problems」(81点/100)

アルバムレビュー
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「舐め合うボクたち」ごっこを克服した大人のKIDS

THE GET UP KIDS /「Problems」(2019)

思い起こすこと十ウン年。
ゼロ年代はじめの頃だろうか、まだパンキッシュだった彼等を初めて知ったときの第一印象は、正直、決してよいものではなかった。
ナイーブな青臭さの共有による、繋がり合い。
そんな初期エモ特有の共感ベースドな「閉ざされた開放」は、とどのつまりは、ただの幼稚な”他者”〜自分以外の存在〜への怯えに対する舐め合いでしかない。
…という風にしか、少なくともあの頃の僕の目には映らなかった。
要するに、甘え育って幼稚に肥大した自意識による「舐め合うボクたち」ごっこ。
これが、エモに対する(誤解や極論を孕みながらの)最初の自己解釈であり、そして当時の彼等は、僕からすればそんな図体だけ大きくなった幼児達によるナイーブ自己慰撫ごっこの、その最前線にいた子供=KIDSだった。
だから彼等の初期の疾走感とは、そうした不快さ、自らとは違う他者がはらむノイジーさからの逃走の象徴にすら見えたものだ。(※1)

と、なんだか酷いことを書き連ねているが、今となっては、それもはや二十年近くも前に書いてきたただの昔話。
その間に、エモは分裂と拡散と合流を重ね、多様化と汎用化、形骸化と陳腐化を繰り返し、やがてツール化され、希釈され、コピペされ、消費され、また他方で違う音楽に「舐め合うボクたち」という自慰のためのオナホの座を引き渡しつつ、そして全うし、終わっていった。
またその間に、彼等もようやく皮が剥け、少しは成熟を見せながら、その活動に幕を下ろすのだった。

さて、そんな「ボクたち」のゲラップが再結成第二弾を出すという。
テーマは、原点回帰。
て、マジか?
作風の志向性をそう聞いて先のトラウマが一瞬ながら脳裏をよぎったものだが、音を聴いて一安心。
しっかり「大人」の今に立脚した目線で、自分たちのポップネスという原点へと回帰しており、胸をなで下ろすことができた。
てそりゃあそうだろう、だってここにいるのはいっぱしに大人になった、もう幼稚じゃすまされない、キッズではないGET UP KIDSなのだから。
よって本作に鳴らされているのは、後期の彼等の音楽性を基盤にしながら、とうに腐りきっている青春の酸味を捨て流し、インディロックやオルタナティヴをも経て吸引してきた、今の彼等のサウンドである。
ましてや、いいおっさんが他人怖いと青臭さに逃げ走っているような、そんなグロテスクな醜態は晒してはいない。
だから音が、しっかりと力強い。
そして、しっかりと前を、今を向いている。

にしても。
あの頃に未熟同士のオナニーの見せ合いだと批判したロックが、しかと成長してこう魅せ会うとは、当時はゆめ思わなんだ。
然るにこれは、「舐め合うボクたち」ごっこを とうに卒業したかつての子供達の同窓会なのだと思う。

・※1:そんな「Something to Write Home About」は、この数年後に好きなアルバムへとなりましたね。

DATE
  • アーティスト名:THE GET UP KIDS
  • 出身:アメリカ
  • 作品名:「Problems」
  • リリース:2019年
  • EMO
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